12

 乾き始めた大地の上を福が全速力で走っている。その速度は速く、走る形も美しい。無駄な動きがない。その目はいつもの優しい福の目とは違って少し攻撃的になっている。眼鏡を外した福は見学している花の前を花を見ることもなく走り過ぎていった。

 花は歩き始める。一人で。

 空は晴れている。見上げればそこには青色があった。

 風はとても冷たい。

 今日は花はえんじ色の制服の上に紅色のコートを着ている。

 花は道の途中にある白いベンチの上に座った。ずっと立っていたから足が休めてすごく気持ちがいい。花は持っていた読みかけの本を読み始める。少しの間、花は読書に集中する。

「お待たせ。待った?」

 顔を上げるとそこには福がいた。福は体操服から着替えをして、欅の制服姿になっている。着ているコートは鮮やかな山吹色のコートだった。

「ううん。別に待ってないよ」と本を閉じながら花は言う。

「なんの本読んでたの?」

 福がそう言うと、花は手に持っていた本を見せてくれる。本の題名は『美味しい料理入門』だった。

「美味しいカレーライスなら朝が作ってくれるでしょ?」福はいう。

「自分でも作りたいの」と(頬を赤く染めながら)花は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る