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 花は小さなころからよく体を壊した。熱を出すたびに女学校をお休みした。

 私、このまま死んじゃうのかな? そんなことを花はよく考えていた。

 死にたくないな。もっと生きていたい。

「花。大丈夫?」

 お母さんが言った。

「大丈夫。だいぶ良くなった」と花は言った。

「熱は下がった? なにか食べる?」

「カレーライスが食べたい」

「カレーか。うん。わかった。いいよ。今日はカレーライスにしよう」と真っ白なエプロンをつけながらお母さんは言った。

 とんとんと気持ちのいい野菜を切る音がする。花はベットの中から、そんなお母さんの料理をする背中をじっと見ていた。

 しばらくするとカレーライスのいい匂いがした。お母さんのカレーライスの匂いだ。そんな匂いを嗅ぎながら、花はゆっくりといつのまにか眠りについていた。

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