第65話二十年後3

 そもそも、第二王子の王子教育の成果は芳しくない。母親である側妃に甘やかされているせいだろう。同母妹の王女も第二王子と同様に王族らしからぬ振る舞いをするため、高位貴族から疎まれている。もっとも母親似の第二王子と第二王女はそれを知らない。気付いてさえいない。


 二人は十代半ばだというのに王族として必要最低限のカリキュラムさえ習得していない。


 同年代の第一王女にできて、第二王子と第二王女にできない理由はいくつか考えられるが、決定的な理由は本人たちが自分の立場を理解していない点だろう。

 同じ母を持ちながら王族教育を修了している第一王子が良い見本だった。彼は同母弟や同母妹と違い、自分の立場を自覚し、立派な王族であろうと努力していた。その第一王子の足を引っ張るのが実の母親と弟達というのだから救われない。


 私だって別に第一王子を嫌ってはいない。

 例え、見た目があの国王陛下に似ていたとしても。

 側妃似でないだけ幾らかはマシってものだわ。


 だから今回の一件で、第一王子が王位継承権を返上したことには少しばかり同情している。

 弟を助けるために、自分が王位継承権返上なんて、 本当にあの第一王子はお優しいこと。ああ、嫌味じゃありませんよ。実の弟とはいえ、中々できることではありませんもの。


 兄君の王位継承権返上のお陰で、第二王子は王籍剥奪されても一応貴族位を得ましたものね。

 ええ、たとえそれが「男爵位」であったとしてもです。

 本来なら、無一文で放逐されていたかもしれませんものね。


 王族だから平気だとでも思っていたのかしら?

 そんなわけないでしょう。

 血筋の面からいっても劣っているのに。


 これで正妃の息子ならまた話は違っていたかもしれませんけどね。

 正妃の息子ならば、種馬要因として王家に辛うじて残れた可能性はあったでしょう。ですが、側妃の息子ではね。残す価値はありません。


「それで?その男爵領は結局どこになったの? 」


「もちろん領地は王家直轄地よ。ただし最北に位置する土地。何もない場所だけど、その分、彼らの嫌いなお勉強もないわ。なにしろ領民すらいないもの。ただ、彼らの新しい家は王宮より広いわ。それにあそこは身分を考慮しない場所でもあるし。彼らの希望に添う場所だとは思わない?」


「極寒の城塞か……。あそこなら逃亡は無理だろうし、駐在する兵は数年おきに代わるから、目新しいことが好きな第二王子一行にはいい場所なのかもしれないわね」


「ええ、本物の平民の生の声が聞けるでしょうしね」


「なんちゃって元平民の男爵令嬢とは違うことを身をもって学ぶということね」


「言って聞かせても理解できない残念な頭なのだから仕方がないわ」


「肌で感じれば嫌でも理解するって?ミネルヴァ、相変わらず鬼畜!」


 手を叩いて笑うロザリンドも私と大差ないと思う。

 今回の件でロザリンドがやったことも側妃派たちには痛手だったはず。


 側妃派は知らなかったのかしら?


 辺境伯家は男性のみならず女性も強い、ということを。

 貴族しか採用しない近衛騎士とは違って実践向き。すぐにでも軍に貢献できる猛者揃いだということを。


 どうして自分たちの首を絞める行動ばかりするのか。


 昔から思っていたけど、理解不能だわ。

 考えても無駄なものは考えない。それでいいわ。

 だってそう考えても常識人の私とでは相いれない存在だもの。




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【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~ つくも茄子 @yatuhasi2022

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