第64話二十年後2
近衛にとっては、自分達の管轄に軍人が土足で上がり込んできたようなものなのでしょう。
第一王女殿下は仰る。
「彼らは私を守る任務を正しく理解し遂行するプロフェッショナルです。何が問題なのでしょう。己の任務を放棄する、責務を果たさない者に文句を言う権利などありません」
正論だった。
ぐうの音も出ない程に。
「私は第一王位継承権を有する嫡出の王女です。次期女王になる私に害をなすものを排斥するのは当然でしょう。いつ後ろから刺されるか分からない者を護衛にし続けるなど狂気の沙汰です。あら、失礼。後ろからではなく前から正面切って害をなそうとした集団でしたわね。訂正しますわ。私に害を成そうとする近衛など不要です。ですが、一部の王族には近衛は必要なのでしょう。その点を考慮して第一王女と王妃殿下にのみ近衛から軍に護衛要請が出されたまでのこと。あなた方近衛は自らの手を血に染めてまで廃そうとした王族を守らずに済みますし、私もいつ暗殺するのか分からない者を傍近くにおく必要がなくなり一石二鳥。私は何か間違った事を言ったかしら?それとも理解する頭がない、と判断した方が良いのかしら?まぁ、理解力の有無はどうでもいいのですけれど。私が欲するのは忠誠のみ。それができなのなら現状で満足しなさい」
そのお言葉に近衛騎士団だけでなく、軍も、文官も、大臣達も、国王陛下と王妃殿下、五大侯爵家も絶句した。
第一王女は近衛騎士団と和解する気は毛頭ない。
それどころか自分を暗殺する集団であると断言し、庶子の王子を擁立しようとする集団と見ている。
明確な意思表示。
大した覚悟だ。
一体どのように育てれば、ここまでの精神力と胆力を持つことができるのか。
真っ青になる周囲を一瞥もすることなく、王者の風格を見せる王女殿下。
その場は間違いなく第一王女殿下が支配権を握っていた。
ひとり、第一王女殿下の外祖父にあたるモルデュール侯爵だけは満足そうに笑っていた姿が忘れられません。
王女の覚悟と事態を重く見た五大侯爵家は、第一王女派であることを鮮明にした。
嫡出の王女。
産まれた時から王位継承権第一位。
だというのに、近衛騎士団とその周辺の者達に「女だから」「王女だから」という理由で何故か王子が王位を継ぐと決めつけている。その考えに賛同する侯爵家はいない。全くもって腹立たしい。
まぁ、仲が良いとは言い難かった侯爵家が一致団結するのはいいことだと思うわ。
第一王女殿下は辺境伯家の重要性を理解していらっしゃるし、軍とも上手く付き合っている。
王妃殿下によく似て、美しく聡明。
女王として申し分なかった。
それでも立太子が執り行われていないのは、近衛騎士団の暴走を恐れているからに他ならない。
今は大人しくても先は分からない。
用心に越したことはない、と御前会議で決定が下された。
一触即発の空気は辛うじて回避された形になり、それ以降は側妃派も表向き大人しくしている。
なのに……
今度は第二王子がやらかすとは……。
しかも……。
一人の女に夢中になった挙句に私の娘を婚約者だと勘違いして大勢の前で婚約破棄を宣言?馬鹿じゃないの? 頭が沸いてるとしか思えないわ。
一体いつ、私の娘とあの側妃の息子が婚約したと言うの?あの側妃の息子に可愛い娘と結婚させる訳ないでしょう!そもそも侯爵家は王妃派!第一王女の後ろ盾の一つよ!!
しかも……。
女しかいないウォーカー侯爵家に婿入りしてやるからお飾りの妻にしてやるですって!?
男爵家の庶子風情では妃どころか結婚も出来ないから侯爵令嬢と結婚して、自分と恋人の子供を跡取りにしてやる!?王族の血を引く高貴な子供を得て幸せだろう!?
ふ・ざ・け・る・な!
怒りに任せて握りしめてしまった扇がミシミシと音を立てているわ。
王家のウォーカー侯爵家乗っ取り計画。
公の場で宣言しておいて、なかったことになどさせない!させるものか!ウォーカー侯爵家を馬鹿にするにも程がある!!
バキッ!!
へし折られた扇を一瞥すると、「今すぐ王宮に参ります!」と一喝し、私は王宮に馬車を走らせた。
目に物を見せてやるわ! 覚悟しなさい!!
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