第62話元義兄side

 ふわふわする。


 ふわふわ……。

 今日も愛するエリカがいる。エリカは可愛い。


「あら、どうしたの?」


 エリカが小首を傾げる。

 その仕草も可愛い。


「おはよう、


 私は挨拶を返す。

 すると、エリカが嬉しそうに笑った。


「ええ、おはようございます。でも間違ってますよ?」


「間違う?」


「ええ」


「なにを?」


「名前ですわ。私は『エリカ』ではなく『ナターシャ』ですわ」


「ナターシャ……?」


 私は動揺する。

 そんなはずはない。

 だって……。


「『エリカ』ではありません」


 エリカじゃない?


「あなた、今日もお注射しましょうね」


 そう言ってエリカは、注射器を取り出す。


「さあ、腕を出して?」


 私は言われるがまま、腕を差し出す。


「それでは、お注射しますねー」


 そう言って、エリカは私の腕に注射器を刺す。


 エリカ……エリカ…………ナターシャ……。


「ふふふ、今日もいい天気ですね」


「ああ、そうだな。


 私のナターシャ。

 ナターシャ、可愛いナターシャ。


「愛しているよ、ナターシャ」


「ふふ、私もですわ。あなた」


 今日も愛するナターシャがいる。

 幸せだ。


 明日も明後日も愛してる。

 愛してる。

 愛している。


 ナターシャ……。


「ふふ、お注射しましょうね」


 ナターシャは今日も微笑んでいる。

 私は、今日も注射をされる。

 ナターシャに注射をされる。

 それが幸せだ。


「ふふ、お注射しましょうね」


 ナターシャは今日も微笑んでいる。

 私は、今日も注射をされる。

 ナターシャに注射をされる。

 幸せだ。


「ふふ、愛していますよ」


「ああ、私もだよ。ナターシャ」


 私のナターシャは今日も可愛いな。

 愛してる……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る