第51話フィールド女伯爵side

 夫の死亡通知が監獄から送られてきました。



「奥様、如何致しましょう」


 家令が私に尋ねるのは、元夫の遺体を引き取りに行くのかどうかでしょう。引き取るのなら葬式を上げ墓に入れなくてはなりません。

 けれど……。


「もう家族ではありませんからね。そのままでいいでしょう」


「畏まりました」


 家令は一礼すると、直ぐに通知を暖炉にくべて火を点けます。


 家族。

 果たして私達夫婦は家族だったのでしょうか?

 一緒に暮らしていただけの他人でしかなかったのかもしれません。


 娘が生まれた時、あの人は傍に居ませんでした。仕事で忙しいからと。

 娘の淑女教育が始まった時、あの人は数人の家庭教師を寄こしただけでした。ただ、人選があまりに酷かったので直ぐに解雇しました。それさえも気付いていませんでした。

 娘の婚約者をそろそろ考えていた時、あの人は勝手に伯爵家の次男を婚約者にしてきました。父親が外務大臣だったので将来政界入りをするつもりなのかと勘繰ってしまいました。

 娘が王立学園に入学した時、あの人は仕事を理由にして式にも出ませんでした。

 娘の社交界デビューの時、あの人は上司の娘さんを褒めるのに忙しくて娘の晴れ姿を見る事はありませんでした。同じ日にデビュタントした上司の娘さんは悪くありませんが、少々思うところはありました。


 こうして思い返してみると、あの人は父親役も夫役もこなせていないのが分かります。

 早急に離縁するべきだったのでしょうね。

 ですが、昔は今のように離縁する夫婦は貴族にも市井にも珍しかったのです。

 結局は、家の体面を考えて離縁を避けていたのでしょう。


 夫は兎も角、義兄一家は良い人達だった事も離縁をしなかった要因ともいえます。


 娘の時は間に合いませんでした。

 孫娘の時にギリギリ間に合ったようなものです。

 曾孫は何があろうと守り通して見せます。



 さて、元夫が死んだからといって、フィールド伯爵家に影響は一切ありません。

 元々、この家の入り婿でしたし。あの人は裁判官としての仕事と出世にしか興味のない方でした。

 家の経理関連は全て私が中心となって行っていましたから。優秀な家令が付いてくれたからなんとかなったようなものです。


 家令には本当に感謝しています。


 彼は家に居付かない元夫に代わって、なにかと娘を構ってくれていました。

 娘にとって父親代わりといっても過言ではないでしょう。

 ありがたいことです。




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