第50話神官side

 男とは幼馴染だった。


 友人というよりは悪友だろうか。

 同じ身分、同じ境遇、似たもの同士だった。しかしそれは昔の話。あの男は変わってしまった。昔から欲深い男ではあったが昔はあそこまでではなかった。権力に固執し、女に溺れて転落していった。


 宮廷の権力闘争に敗れた私は、心底疲れ果て、その後、神官となった。



「愚かな男だ」


 死してなお、その遺体は使われ続ける。

 名前のない墓の下には何もない。


 私も彼女もソレを知っている。


「ドディ、お前の間違いは彼女と結婚した事だ」


 空の墓に話しかけても意味はない。

 それでも他に彼に伝える術はない。


「名門のフィールド伯爵家。そこの婿に選ばれた事をあんなに喜んでいたのにな……。いつの間にか自分が伯爵だと勘違いして……。知っていたか?フィールド伯爵家は数代前から女系の家系だと言う事を。それを理解していたらこんな最後は迎えなかったのにな」


 この国は、二百年ほど前は『男子継承』。当主は『男』というのが当たり前だった。その考えが禁止となったのは、とある貴族の所業のせいだ。


 とある貴族の入婿となった男は、そこの爵位を継ぎ当主になった。しかし、妻の家を乗っ取る行動を行った事が発覚した。何処かの田舎貴族、あるいは弱小貴族ならここまで騒ぎにならなかったのかもしれない。

 乗っ取りされかけたのは、時の国王の側妃の実家。

 当然、当時の国王は烈火の如く怒り狂い、男を御家乗っ取りの首謀者として処刑した。関係者も皆、処刑された。男の実家も断絶し、一族は国外追放となった。


 男の処刑後、王家を中心に貴族家の乗っ取りを捜査したところ、妻の家を乗っ取ることに成功した貴族は少なからず存在していた。

 王家の名のもとに、乗っ取った男とその実家は粛清された。


 それ以降、新たな制度ができた。


『男子継承』から『直系継承』へと。


 入婿は家を継ぐ資格がないものとされた。


 お前が見下していた元妻は、お前よりもずっと貴族だった。それだけだ。


「神の御加護を」


 冥福を祈る。

 どうか安らかに眠れ。



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