第49話神官side

「神はお許しくださるでしょうか?」


「勿論ですとも」


「こんな罪深い私でも?」


「貴方様に罪はございません。ただ、守るべきものを守っただけです」


「そこで多くの人の運命が狂ってしまいました。けれど、もう許しを乞うことは致しません」


「……」


「ここにも暫くこれないと思います。神官様、今日は本当に有難うございました」


「貴方様に神の祝福がありますように」


 決まり切った祈りの言葉を捧げた。

 彼女はそんなものを求めてはいないだろう。

 だから後に続く言葉は無かった。

 大抵の者達は懺悔の後、「救われた」と言わんばかりの言葉を告げる。

 彼女に白々しい言葉などいらないという事だろう。


 お忍びの貴婦人はベールを被っているため顔は分からない。表情も悲しんでいるのか喜んでいるのか、はっきりとしない。告解が終わり、神殿を後にした。








「神官様!」


 見習いの少年が私を呼びにきた。

 先ほどの貴婦人とすれ違ったようで随分興奮していた。


「あの人貴族ですか!?」


「恐らくな」


「顔は全く見えませんでしたけど、すっごい優雅でした!ヴェールを被っていても立ち居姿が全然違いますね!この神殿にくる貴族とは大違いだ!!あ、すいません。神官様に向かって」


「いや、構わない。その方の顔は見なかったんだな?」


「はい。ベールで隠れてましたから」


「ならいい」


「はい?」


「お忍びで来られた方だ」


「あ!知られちゃまずいってやつですか?」


「……そういったところだ。元旦那さんが亡くなって冥福を祈りに来られたようだ」


「この神殿に埋葬されているんですか?」


「まぁ……そんなところだ」


「あれ?でもここに貴族の墓なんてありましたか?」


「元貴族らしい。婦人は違うようだがな」


「へぇ~~。貴族って色々あるんですね」


「そうだな」


 見習いの少年と別れ、私は墓地へ向かった。ここに彼女の元旦那の墓はない。ただ、神殿の端の一角に身元不明や引取りがいない者達が葬られている。彼女の元夫はそこで永遠の眠りについている。無惨な最後だったようだ。


「魑魅魍魎うごめく貴族社会で生き抜くには並大抵ではなかっただろう。権謀術数飛び交う本物の宮廷貴族は恐ろしい。それを見誤った男の末路は哀れなものだ」


 彼女は元夫の墓の場所を知らない。

 ここに来たのは間違いなく死んだという報告の為だろう。

 私は最近赴任してきたばかりで、彼女は私が知らないと思って伝えにきてくれたようだ。だが、残念だが知っていた。



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