第41話とある財務省事務次官side

 ウォーカー侯爵邸――




「それはおかしいですわ。だって彼女達は私にこう言いましたのよ?『侯爵家の力がなければ何もできない令嬢。国は侯爵家の力なんて必要ない』と。それを御存知ないのですか?」


「「なっ!?」」


「こうとも言いましたわ。『私は大臣の娘。兄や夫もいずれ大臣に上がるだろうから、その時は兄や夫に進言して理不尽に力を行使する侯爵家や分不相応な扱いを受けている辺境伯家を潰してさしあげますわ。侯爵令嬢だからという理由で特別待遇を受けておきながら、その実なにもできない能なしで無能な役立たずの癖に偉そうにして。恥ずかしくないのかしら?』と、宣言されましたわ」


「「!!」」


 この発言により更に財務大臣は追い詰められた。

 証拠映像まで見せられたのだ。言い逃れはできない。

 そもそも証拠映像がある以上、嘘でも「知らない」とは言えないのだ。

 大臣の娘は何を思い違いをしたのか、侯爵家の権力や財力を過大評価していたのだろう。娘の発言がそれを物語っている!

 隣の大臣も絶句して言葉を失っていた。

 知らなかったのか!!


「ですから、私、国が侯爵家と辺境伯家の力を不必要だと判断いたしましたわ」


「そ、それは……何分、物知らずな令嬢の発言でして……」


「彼女は自分が財務大臣の娘であると自負しておりました。学園は学び舎であると同時に小さな社交場でもあります。その中での発言は後々に大きな影響を持つことになりますわ」


「貴族令嬢として欠落のある娘の言葉ですので!」


「それは暴言を吐いた理由になりまして?一族郎党を処刑台に送っても良かったところを恩情を見せてあげたのはこちらですよ?これ以上何を望むというのです?これに関して陛下も『遺憾である』と仰ってましたわ。と」


 これ以上は言葉にならず、何も言うことができない。

 税収に関して陛下の許可を取って行っているのは知っていた。それは陛下が侯爵家に配慮をしているからだとばかり思っていた。内心では元の税収に戻したいと願っているだろうとも思っていた。


「大臣の御令嬢の言葉ですもの。是非、実行に移していただきたいわ」


「実行ですか?」


「ええ、自分達の力でのみ国をまわすという。大丈夫ですわ。真に実力がある方々なら私達の家がなくても問題ありませんでしょう?真の実力を発揮する絶好の機会ではありませんか。影ながら応援させていただきます」


 この言葉を最後に我々は強制退席を命じられた。

 王宮に帰還した時には陛下の命令で一斉監査が行われていた。陛下自身がこの決定を下したのだ。それによって不正を行っていた者達が次々と見つかり処罰されていった。


 愚かだった。我々の浅はかな考えは打ち砕かれた。


 ウォーカー侯爵令嬢は我々の謝罪に全く応じなかった。それなのに「色よい返事がきた」と舞い上がってしまった。日取りは令嬢が指定した。その時から内部監査は始まっていたのだ。私達は最初から最後まで踊らされていたのだ。


 その後も五大侯爵家と辺境伯家から税収を取る事はできず、責任を取る形で「やらかした問題児の家」から税を取る事が決定した。



 数年、もしくは数十年後にどれだけの宮廷貴族が生き残っているのか、それすらも定かではない。



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