第7話祖父の願い2

 周囲の大反対に屈するお爺様ではありません。

 

「親が凡庸だとしても子供まで凡庸だと決めつけるものではない」


「私の親友は大臣にまで上り詰めた傑物だ。子供がその才能を受け継いでいないからと子供までそうと思うのはおかしい。逆に孫が祖父の才能を受け継ぐと考えるべきだろう。見ろ、ラシードは親友の伯爵とよく似た容姿だ。きっと才覚もある」


「才能など教育次第でどうとでもなる。なんならいっその事、侯爵家で教育を受けさせても良い」


 と、何とか説き伏せたそうです。


 それでもなお不満気な者達を黙らせるために、お爺様は苦肉の策を打ち出しました。

 それがバルティール伯爵家次男をウォーカー侯爵家に養子縁組させる事でした。

 また、息子夫婦――私の両親に男子が誕生したら、その子が侯爵家の当主に据え、私とラシードお義兄様夫婦には侯爵家の持つ爵位の一つを与えて分家として独立させる事を約束しました。しかも契約魔法を掛けてのもの。違反すると何らかの罰則が発生する代物。そこまでしてまで孫同士を結婚させたかったお爺様の執念を感じます。

 こうして私とラシードお義兄様の婚約が決まったのは、私が8歳の時でした。




 ただし、この婚約は正式なものではなく仮の婚約に過ぎませんでした。

 早い話が様子見。長期間を設けて婚約するのに問題なしと判断が下された時に正式に書類を交わされる事となりました。思えば、この時に正式に婚約を交わしていれば良かったのかも知れません。そうすれば、あのような事態にはならずに済んだでしょうに。



 何はともあれ、この結果にお爺様は満足したようでした。


「ミネルヴァならきっとラシードを気に入る」


 まだ見ぬ婚約者に祖父は確信をもって語っていたのが印象的でした。


 周囲が勘繰るくらいに仲が良かった祖父達。

 どのような形であれ、互いの孫同士の婚約が成立した事に安堵したのでしょうか。お二人は仲良く他界されたのです。


 葬儀は合同で行い、互いの墓は各家の墓所ではなく、個人の墓を建てました。墓の場所は当然、ウォーカー侯爵領地。互いに隣同士になるよう配置した墓。祖父達は遺言状に「そうして欲しい」と書いていたようです。そういう事をするから周囲にあらぬ誤解を植え付ける結果になったのですよ? と、孫娘は思います。


 葬儀に参列していた人々は、複雑な顔をする者、遠い目をする者、悟った表情をする者、と様々でとても印象深いものでした。


『永遠の友情』と記された二つの墓。


 これはお爺様の遺言です。

 こういう行動をするから仲を怪しむ者が後を絶たないのですよ? と、孫娘は亡き祖父に物申したい思いに駆られました。



 よくもまぁ、お互いの妻に後ろから刺されなかったものだと……訂正いたします。私の祖母は兎も角、伯爵夫人の暗い顔。あれは夫を亡くした悲しみだけではありません。泥のような濁ったナニカを醸し出していらっしゃいました。

 あれは……恨み? いえ、怒りでしょうか? その矛先は誰に向けてのモノでしょうか。目を爛々と輝かせている祖母とは対照的で逆に怖かったです。


 

 もしかして。

 もしかしなくとも伯爵夫人は我が家を恨んでませんか?


 お爺様、貴方、親友の奥方に恨まれていますよ?


 一人の貴婦人がドロドロとした、見るモノを恐怖させるような黒いオーラを纏いながら呪詛の言葉を紡いでいる中、祖父達の葬儀はつつがなく終わりました。


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