第6話祖父の願い1
ウォーカー侯爵家とバルティール伯爵家の縁組。
我が国では公爵の地位は一代限り。
それも臣籍降下する王族がなるもの。そのため貴族の頂点に立つのは侯爵家となっています。
国には五つの侯爵家が存在し、私の家はその一つ。
広大な領地と領地経営の手腕により、他家との付き合いも多く、陛下の覚えも目出度い。対してバルティール伯爵家は領地を持たない宮廷貴族。代々、文官または武官を輩出してきた家柄。とは申しましても、宮廷貴族は王家に仕える事で収入を得ています。実力があれば成り上がることも出来ますが、大抵の場合は埋もれて消えているのが実情でしょう。才能ある人物を輩出し続ける家の方が珍しいのです。
つまり、バルティール伯爵は宮廷貴族としては中の中に近い位置にいる家なのです。
そんなバルティール伯爵が遥かに格上であるウォーカー侯爵家と縁組できたのは、
先代のバルティール伯爵は大変優秀な方で、私のお爺様。先代ウォーカー侯爵とは共に競い合い切磋琢磨した間柄だったそうです。「無二の親友」「なくてはならない存在」と互いが評していたほどに。酒の席では互いに「どちらかが異性だったなら間違いなく結婚していた」と笑い合っていたとか。
そんなある意味で相思相愛の二人は「お互いに子供が出来たら結婚させようじゃないか」と約束していたそうです。まだ結婚もしていない段階での口約束。普通なら笑い話で終わる様な話。現に二人の話を聞いた人達は「頑張れよ!」「親友通り越して家族だよ!」とからかっていたとか、いないとか。
周囲は二人の話を笑い話の一種と捉えていたのです。
誰も本気にしてはいなかった――という事です。二人は本気でした。
けれど、約束は果たされませんでした。
それというのも、お互いに生まれた子供は男の子だけ。二人の夢は潰えたのです。が、そこで諦めるお爺様達ではありません。
「子供がダメなら孫同士を結婚させればいいじゃないか」と、またしても酒の席で盛り上がったそうです。
そうしてお爺様待望の女児として生まれたのが、私。
私が生まれた時、バルティール伯爵家には既に男児が二人誕生していたのです。
「是非とも玉のような孫娘が欲しい」
お爺様の願いが通じたのでしょうか。
息子夫婦の間には娘が誕生し、お爺様の喜びは天にも昇る勢いだったとか。
「伯爵家には二人の男児がいる。下の子を貰おう」
まるで猫の子を貰うような軽い言葉で、私とラシードお義兄様の婚約は決まろうとしていました。
伯爵家の次男として生まれたラシードお義兄様。年齢も私より3歳年上。
まだ存命だった祖父達は、「これで漸く悲願が叶う」と喜んだそうです。
しかし、上位の伯爵家ならいざ知らず、中位の伯爵家の次男が五大侯爵家に婿入りなど前例のない事でもありました。
ウォーカー侯爵家の親族は当然、反対しますし、侯爵家の寄り子貴族達も猛烈に反対しました。
侯爵家の親族からしたら、王族にすら嫁げる本家の令嬢を寄りにもよって中位クラスの伯爵子息と目合わせるなど言語道断。
「ミネルヴァ様の下に男子が生まれたらどうするのか」「直系の男子を押しのけて婿の伯爵子息を当主に据えるのか」とそれはもう大変な騒ぎだったそうです。
なにより私と歳の近い王子が二人いた事も大きかったのでしょう。
お爺様の手前、はっきりと言う者はいませんでしたが「王妃にさえなれる総領娘を格下の伯爵子息と結婚させるのか……」という空気はどうにもならなかったのです。
寄り子貴族達も「バルティール伯爵家はウォーカー侯爵家の寄り子貴族でさえない。現伯爵は兎も角、その息子はパッとしない文官ではないか」「そもそも次期バルティール伯爵は出世に興味のないお方だ。そんな男の息子を本家に迎え入れて良いものか」と散々、反対され、寄り子貴族達は秘かにバルティール伯爵家の
もっとも、とばっちりにあった親族は溜まったものじゃなかったでしょう。
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