ショートショート「戦え、ライブラリー!」
夕暮れの街に激しいサイレンの音が鳴り響く。怪獣が出現したのだ。怪獣は火を吐き、街を瓦礫に変えていく。普段は人々が落ち着いて本を読むこの場所も、この時ばかりは緊張感が走る。
「都市防衛用諸災害時管制システム、起動せよ!」
館長がそう一声あげると、本棚にあった本は全てその姿を消した。空っぽになった本棚たちは開いた窓から、オレンジ色の空にその体を伸ばす。中身の消えた本棚には、いくつも穴が空いており、そこから伸びた銃口は怪獣に向けられた。
在庫確認用のパソコンは生物分析用のスーパーコンピューターとなり、職員が怪獣の分析を開始した。
「分析完了!怪獣は炎型で、水型攻撃が有効です!」
「よし、Ⅽ3ウォーターミサイル発射!」
すると先ほど消えた本たちの内、Ⅽ3の棚にあった「水のふしぎ・研究」のコーナーの本があらゆる本棚に送り込まれた。そして、それらの本の文字の一つ一つがミサイルと変化し、本棚の銃口から一斉に怪獣めがけて放たれていった。
ミサイルは見事怪獣に命中。怪獣の腹にも大きな穴が空き、そこへ更にミサイルが打ち込まれていく。怪獣の炎を生成する器官へと入っていったウォーターミサイルは、命中した途端に大量の水をぶちまけた。水の本から作られたミサイルには、水を放つ能力があるのだ。
「怪獣は火を吐く能力を失った。ここから一気に総攻撃だ!」
館長がそう叫ぶと、職員たちはあらゆるミサイルを本棚に送り込んでいった。怪獣は様々な攻撃を食らっていく。電気の本から作られた電撃ミサイル。日本史の本から作られた刀つきミサイル。将棋本から作られた縦横無尽に動くミサイル。そしてトドメに、たくさんの絵本から作られた、虹色のビームが放たれる。ビームを真正面から浴び、怪獣はその場に倒れこんだ。
「よし、任務完了!」
市民からは歓声が湧きあがる。建物や紙や文字を焼き切る恐ろしい怪獣は倒され、街の平和は守られたのだ。役目を終えた本棚たちには、いつも通り本が並べられていた。
皆さんは、疑問に感じたことはないだろうか。なぜあの職員たちは、無償で我々に本を読ませてくれるのか。なぜあんな快適な空間を誰もが無料で利用できるのか、と。
答えは簡単だ。彼らは国から重要な任務を任された国家公務員だからである。普段は本を貸し出すことで市民に教養を身に着けてもらい、いざという時には防衛の機能を果たしてくれる。
都市防衛用諸災害時管制システム。略して「都諸管」。今日も彼らは館内だけではなく、街の静けさも守ってくれているのだ。
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