ショートショート「外と内」

「鬼は外。福は内。」

今日もそんな声があちこちで響く。豆が家の外に投げられる。一年の間、その姿を隠し人知れず家の中に住み着いた鬼たちは、豆が大嫌いだ。豆を避けて家を出ていった鬼たちの代わりに、福の神が舞い込むのである。


 家を追い出された鬼たちは人間を憎んだ。なぜあんなに豆を撒いて、自分たちを迫害するのか。そもそも人間自身が悪いんじゃないか。そんな憎悪のこもった鬼たちは夜の暗闇の中で集まる。理不尽に迫害をする人間たちが憎い。人間たちをどんな目に遭わせてくれようか。そんな話をしているうちに、だんだんと追い出された鬼たちは打ち解けてきた。今までは姿を隠してひっそりとしているだけだったので、こうして共通の話題を持つものたちで集まるというのは今までにないことだった。それに同族どうしで姿を隠す必要もない。みな自分の本来の姿を現して、気持ちよく話すことができた。その幸せに浸ることができると、鬼たちの怖い顔は徐々に柔和になっていき、角も取れてきた。皆で集まって食事をすれば、これまでにない温かみを感じ、ふくよかになっていった。そして、幸せに満ちた彼らはこの幸せを分けてあげたいと思うようになった。


 家にやってきた福の神たちは人々に幸せを与えようと決意した。しかし、人々が福の神に対して感謝をしたのもやってきた日だけ。またいつもの日常に戻ると、人はみな神への感謝など忘れ、日々の生活に精一杯になった。福の神は幸せを与えようとしたが、ちょっといいことがあったところで、人はラッキーだとしか思わない。それに勝る仕事のストレス、家庭のストレス、人間関係のストレスを福の神は浴び続け、徐々に今の生活が嫌になってきた。何のために幸せを分けているのか。自分はこの家で必要とされていないんじゃないか。そんなことを考えているうちに、福の神の顔は恐ろしいものになっていった。頭部にはいつの間にか角が生え、住んでいる家の者に害をなすようにまでなった。


 一年が経った。幸せを分け与えたい者は家にやってきて、人に害をなす者は家から追い出される。

「鬼は外。福は内。」こうしてまた一年が経つのである。

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