ショートショート「良いお年を」

「なあ、どうだった?」

「なにが?」

「俺去年の年末さ、お前に『良いお年を』って言ったじゃん。どう?良い年だった?」

「その答え合わせする奴いねえだろ。」

「で、どうだった?」

「嫌なことばっかりだったよ。財布は落とすし、鍵も落とすし、就活でも散々面接で落とされてさ。なんか落としてばっかの1年だったな。」

「そうか、やっぱりそうなんだな…」

「ん?どういうこと?」

「俺さ、最近気づいたんだけど、俺が『良いお年を』って言った人は、それから1年、何かしら落としまくる年になるらしいんだ。」

「はあ?何その能力」

「いや実際にオレの友達だけやたらと落とし物が多かったんだよ。多分年末によく遊んでたからだと思う。」

「おいおい勘弁してくれよ!今年の苦労、お前のせいじゃねえか!」

「悪い、悪い。でも嫌なまま終わった訳じゃないんだろ?」

「まあ、それはそうなんだよな。落とし物の拾い主の女性と付き合えたり、就活も、落とされた原因を分析して結果的に結構いい会社の内定をもらえたし。」

「そりゃ良かった。これも最近気づいたんだけど、俺のせいで何かしら落としても、結果的に良いことが起こるらしいんだよ。」

「福の神なんだか疫病神なんだか分かんねえな。つまり、『良い』『落とし』を授けてくれたってことなんだな?」

「みたいだな。じゃあもう年末だし、良いお…」

「言うな言うな。後々良いことがあるにしたってリスキーなんだよ。もうこの話は終わり。これが落としどころってことだ。」

「なるほど『良い落とし』じゃなくて『良いオチ』を、ってことか。」

「うるせえよ。」

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