ショートショート「キリギリスのダンス」
お腹を空かせたキリギリスさんは、アリさんたちの家にやって来ました。
「アリさん、僕はもう食べるものがありません。これでは飢えて、凍え死んでしまいます。どうか食べ物を恵んでください。」
そう言うキリギリスさんに、アリさんは、
「キリギリスさんは夏場、遊びほうけていましたよね?こうなるのは当然でしょう。夏のように好きなだけ踊ったらいいじゃないですか。」
そう冷たく返しました。するとキリギリスさんはこう言いました。
「なんですかその言い方。僕は遊んでたんじゃない!みんなに娯楽を提供していたんです!春に暇つぶしに考えた踊りをちょっとやってみたらその評判がよくて、口コミで僕の評判がどんどん広がっていって、皆から踊りをやってくれるようにせがまれてたんですよ。皆言ってたんですよ、『こんなの初めてだ』とか、『今までの踊りにはない構成や展開があって、人間味を感じられる。』とか。中には、僕のパフォーマンスを褒めてエサをくれる虫までいて、それでちゃんと生計を立てていたんですよ。だから僕だって仕事をしていたんですよ!アリさんのような肉体労働じゃなくて、顧客のいる娯楽産業だっただけなんです!」
こうまくしたてられた後、アリさんは言いました。
「じゃあその娯楽を提供した顧客を頼ればいいじゃないですか。なんで僕のところに?」
キリギリスさんはしばらく黙った後、言いました。
「いや酷いんですよ!長い間こっちがいい娯楽を提供したっていうのに、秋ごろになって急に飽きたとか、他にないのかとか言われるようになったんですよ。そんなこと言われたって無理じゃないですか!新しいことをやっても前の方がよかったとか言われて、徐々にエサももらえなくなってきて、蓄えもなくなったんですよ。以前、特にエサをくれたお客さんの虫にどれだけお願いしても、自分のとこで精いっぱいだからと取り合ってくれないんですよ!そうしてあちこち回っていくうちにここに来たということです。」
アリさんはこう言いました。
「…じゃあ踊って。」
「え?」
「踊るのが仕事なんですよね。じゃあ踊ってくれたらエサあげますよ。ほら、踊れよ。」
「…はい」
キリギリスさんは飢えたその体を必死に動かし、踊りました。
「いい踊りですね。じゃあエサ多めに恵んであげますよ。」
アリさんからエサをもらい、キリギリスさんは次の家に向かって歩き出しました。
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