ショートショート「食糧危機」

 食糧危機が起こった時、大勢の学者が少しでも早く事態の解決をしようとした。食糧危機になったからと言って、農業や漁業を始めようとする者はいなかったからだ。ある学者は、一粒でお腹がいっぱいになるサプリメントを作った。しかし、味がしないなら食事にならないと不評だった。

 そこで今度は、その辺の野草を美味しくする機械が作られた。どんなにまずい野草でもこの機械にかければ、高級サラダのようになってしまうのだ。また、タンパク質を摂るために、その辺の虫やドブに住む生き物たちまで食糧にし始めた。最初こそ、グルメ評論家に煽られたネット民や、テレビのワイドショーなどに叩かれたが、徐々に世界中の食生活に浸透していき、いつしか常食となっていた。食糧危機を乗り越えたことで、生活は豊かになり、その生活を支えるための食糧として、あらゆる草木や虫、微生物たちが採取された。

 すると、今度は生態系が崩れ始めた。捕食者が増えた草木や虫たちはすごいスピードで数を減らし、遂には大半が絶滅してしまった。科学の力で食糧はなんとかなる。そういう考えが広まっていたので、農業従事者は更に減っていた。今更、野菜を育てたり、家畜を飼おうとする者も現れず、今度こそ本当の食糧危機になった。

 彼らはあらゆるものを食糧にしようと躍起になったが、生産しないものをいつまでも手に入れられ続けるわけもなかった。技術だけが進歩していき、食糧は底をつきかけていた。そんなとき、ある学者がこんなことを言った。

「太陽系のとある惑星には、タンパク質とカルシウムが豊富な生物がたくさんいる。今度はそれを食糧にすればいい。」

 こうして、彼らの宇宙船は地球に向けて出発した。

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