ショートショート「幸福な王子」

 若くして死んだ王子は、その魂を鉛の心臓に宿した黄金の像となった。像となった後、王子は一匹のツバメと協力し、自らの像の宝飾を貧しい国民に与えていった。しかし、冬を越せないツバメは力尽き、王子の鉛の心臓も砕け、ボロボロになった像はゴミとして捨てられた。彼らは尊い者として天国へと旅立っていった。こうして王子とツバメの話は、「幸福な王子」の伝説として語り継がれることになった。

 二人が訪れた天国は素晴らしい場所だった。大勢の人が歌い踊り、辺りには美しい花が咲き乱れている。二人は幸せだった。同じく天国にいる住人たちとも話をした。しかし、どの住人たちも話が合わない。現世にいる間も幸せだった人たちばかりだったからだ。自分たちのように身を切るような凄まじい苦労をした者はいなかった。

 そう考えると、王子とツバメは腹が立ってきた。なぜ生前も幸せだったやつがここでも幸せなのか。自分たちのように苦労した者たちこそ幸せになるべきではないのか。そのことを天国の住人たちや神に訴えたが、天国では皆平等だと言われ、余計に腹が立った。しまいに二人は、天国を荒らし回った。花をむしり、他の住人を攻撃し、人々を不快にさせた。そのことが神の怒りに触れ、とうとう天国を追放された。

 地獄に送られた二人はそこでも様々な人に出会った。生前に盗みをした者、殺人をした者、放火をした者。そいつらが皆、地獄の裁きを受け、苦しみもがいているのだった。王子とツバメは地獄にこそ送られたが、他の罪人たちに比べれば罪も刑も多少はマシだった。二人は、自分たちはこいつらよりマシだと思い、少し満足することができた。二人は幸せだった。

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