ショートショート「シャツの中」

 これからこの会社で働いてもらう皆さんには大事な仕事があります。まず、皆さんならご存じだと思いますが、ウチのブランドで販売してる服にはカッコイイ牛のロゴがついてますよね。どの服にも大きな牛の顔がついていますが、その牛たちはみんな、ここで飼育しています。

 そうですよね、なんでアパレルブランドがこんな大きい牧場を所有してるか不思議に思いましたよね。この牧場には服の柄となる牛たちがいるのです。我々は服を作った後、その服を着て牛にぶつかります。そうすれば、その牛は服にくっついて柄となっているのです。これが我々の最も重要な仕事です。ということで皆さんにはこれから、研修を通して上手く牛にぶつかって、できるだけ怪我を少なくするようにしてもらいます。何か質問はありますか?

 なんですか?刺しゅう?しませんよ。厳密にいえばできません。昨今激しくなっているアパレルブランド同士の競争の挙句、ウチの社長を始め、重役たちは皆、頭がおかしくなりました。その勢いで生まれたのがこの工程です。我々社員は牛にぶつかって服を完成させることで、この会社で生かされているのです。

 あ、今更辞めようとしても無駄ですよ。うちだけじゃないんですよ、こんなことやってるの。服を着てワニにぶつかるブランドもあれば、カバンをヘラジカにぶつけるブランドもあります。中には人が乗った状態の馬をぶつけるブランドもあるんですから、うちはマシな方ですよ。

 皆さん覚悟してくださいね。アパレルブランドの人達は皆、どっこい生きてるんですよ。

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