ショートショート「笠地蔵」

「おじいさん、見てください!」

「なんじゃ?…おおっ、米に野菜に味噌もあるぞ!しかし一体誰がこんなものを置いてくれたんじゃろか…」

「ひょっとしたら、おじいさんが売れなかった笠をお地蔵様たちに被せてあげたから、お地蔵様たちがお礼に置いてくれたんじゃないですか?」

「そうじゃったのか。ありがたいことじゃ。これで正月を迎えることができるぞ。」

「本当に良いことをしましたね。」

「おいっ、こらジジイ!なんでお前の家にウチから盗まれた米があるんだよ!」

「え?あ、吾作さん、いえこれはその…」

「これはウチの家の野菜よ!なんであんたの家にあんのよ!」

「ええ?お菊さん、これは違うんじゃ、その…」

「これは村で管理していた味噌じゃないか。お前が盗んだのか!?」

「村長さん!違うんじゃ、これはその、お地蔵様が持ってきたもので…」

「地蔵が持ってきた?見苦しいぞ、そんな言い逃れ。早くこいつらを捕まえて裁きにかけろ!」

「ま、待ってくれ!やめてくれえ!」


おじいさんの笠が売れなかったのには原因があった。どれもこれもボロボロで、雨雪を防ぐ機能が無いうえに、水分を吸収するような素材で作られていたからだ。そんな笠を、雪の中で凍えそうになっていた地蔵は被せられたのだ。最初こそ嬉しかったが、降り続く雪による体の冷えは一向に収まらず、それどころか無駄に雪どけ水を吸い込んだ笠がのしかかり、余計寒い思いをすることになった。嬉しい気持ちは消え去り、笠を被せたおじいさんへの恨みが募った地蔵たちは、濡れ笠の報復に濡れ衣を着せることにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る