ショートショート「上映後」

 あれ?麻酔が効いてなかったかな?まあまあ、そう騒がないでくださいよ。私は別にあなたの命を狙ってるわけじゃないんですよ。すぐに帰して差し上げますから。私ですか?ただの映画会社の社員ですよ。まあ映画見終わった人をいきなり攫っといて、「ただの」はおかしいか。目的?いえ別に、あなたの願いを叶えてあげるだけですよ。

 まあ事情を説明する前に、苦労話でもしましょうか。ここ数年、映画会社は困窮しているんですよ。いわゆるサブスクが登場したり、動画配信サイトが流行の中心になったり。映画館に直接来る人なんて激減してしまいましたよ。映画の質そのものが悪くなってるなら我々の責任ですけど、そもそも見てくれないんですから。

 ところであなた、さっき見た映画どうでしたか?面白かったですか。ありがとうございます、制作に携わった人間として、心からお礼申し上げます。映画を見終わった後、あなた言いましたよね、「記憶消してもう一回見たいな」って。だから、本当にそうすることにしたんですよ。ウチの映画を面白いと言ってくれる人に何度も見てもらえれば、我々映画会社は収益をあげることができるし、お客様も何度も新鮮な気持ちで映画を見ることができる。これでWin-Winの関係を築けるということなんですよ!どうですか!?

 まあ、納得してもらえないか。それならそれでいいですよ。どうせここで話したことも忘れるんだから。おっとあまり暴れないでくださいね。薬がうまく投与できませんから。ではお客様、23回目のご来場、お待ちしております。

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