第2話 回天堂

 回天堂。

 そこがわたし《オレ》の勤め先だ。

 正確には今いるビルにオフィスを構えた回天堂ここではなく、都市まちの外れに有る、オンボロ一軒家で店を構える『古書店 回天堂』。

 実際には古物商ここ古書店うちが同じグループだと知ったのはごく最近だった。

 それまでは存在自体も認識していなかったが、わたしのばあちゃんがグループの会長として取り仕切っているが、個々の会社や商店は同じ屋号を持っており、会長が同じだけで今まで連携することはなかった。

 ただある日、グループであることを知ったわたしはすべてのオフィスや店舗を回り、そこにいたそれまで会ったことがなかったわたしの姉妹に事と次第を伝えたのだ。

 始めこそみんな一様に驚いたが、説明をするうちになにか思い当たるフシが有ったかのように、皆一様に納得がいったようだった。

 その中で、古物商社の課長だった姉妹は、それ以来自分が動きにくい時はわたしにアルバイトを頼んできた。

 今回、わたしも忙しかったのだが手が離せないとのことだったので、臨時を引き受けた。

 とっとと終わらせないと古書店わたしのスケジュールも狂うので、二つ返事で回答すると普段は着ないスーツに身を包み、会社で依頼品を引き取るとすぐに依頼主クライアントへ渡してきたのだった。


 ひと仕事終わらせオフィスに戻ると、課長は既に戻っていた。

 年齢的には30代くらいで、目元以外はわたしと似ていらしい(わたしはそう思わない)。

 一見穏やかそうだけど、怒らせると怖いらしいと、先日会った依頼主から聞いた。

 依頼主に怒りをぶつけるようには見えないが、人は見た目に寄らないということか。

 確かにたまに、何考えているか分からない時は有るけど。

「もう大木田さんに会ってきたの?早いわね~♪」

 依頼人に会ってきたことに今気がついたかの様に話す課長。

 出かける前にワザワザホワイトボードに書いていったのに白々しい。

「会ってきたわよ。先方さん喜んでいた。」

 そんな態度に何か引っかかるものを覚えつつも報告する。

 課長とアルバイトの間柄とは言え、他に誰もいないなら姉妹として話しても問題ない。

 こちとら普段から会長様ばあちゃんとぶっきらぼうに話してんだ。

 ところで、わたしがここへ顔を見せるようになってから一度たりとして、課長あの人以外の社員を見たことがない。

 ただ連絡をしているところは見るので、どこかで活動している社員がいるのだと思う。

 一応、報告の最後に資料の精査に1週間くらいかかることを伝えたので、わたしは自分の店舗へ戻るため外へ出ようとした時、課長が唐突に呼び止めた。

「ああ、悪いんだけど大木田さんの件が片付くまでこっちにいてもらえる?」

「はぁ~~~!?」

 思わずわたしは素っ頓狂な声を出していた。

「あのねぇ!オレは古書店の方をばあちゃんに任せてこっちに来てんだから早く帰らないと行けないんだよ!」

 思わず素が出た。

 わたしは仕事につくまでは男言葉で話す癖が有った。

 今でもたまに男言葉が出ることが有るので、外では注意しながら話すようにしている。

 ただ、こういう時は素の言い方いいだろうとは思うが、課長は歯牙にもかけずに言葉を続ける。

会長おばあさんの許可は受けているわ。『受けた依頼を完遂するまで敷居をまたがなくていい』ですって。」

 何がおかしいのかクスクス笑いながらばあちゃんの真似をする課長。

 悔しいが少し似ている。

 やはりわたし達は姉妹であり、ばあちゃんの血族なのだろう。

 そのことに納得しつつも、指示には納得できないため、なんとも言えない表情でいるわたしに課長が話を続ける。

「多分だけど、大木田さんにはまだ私達の力が必要よ。いざという時はよろしくね。」

 声色は優しげだが、端末に向かいながら何かを打ち込みながら言っているから、優しさなんて一欠片も感じない。

 とは言え、

 特に災厄に関わる出来事については。

 ならばまだ波乱が有るかも知れない。

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