第二十九話 幻想の守護者

森林の中は霧で視界がよく見えない。探知系の能力スキル 魔法も上手く反応しない。




「私の出番ですね!」




ミナが取り出したのは空間把握羅針盤というB級危険区域までなら魔法妨害 磁場関係なく目的地の方向と半径300mまでの地形を示してくれる道具だ。さすが道具屋。


ミナの羅針盤を頼りに俺は巫女を担ぎ(なんとなく幻惑にかかりそうなので)智一はミナを担ぎ、天音がユンタを担いで木の枝を伝って移動する。




「うわああああ!!」


「魔物に殺された。」




声からしてさっきの輩だな。自業自得、そのままおとりになってろ。




『皆近くに居る?』


『いるぞ。』


『なんとかね。』


『いますよ。てか巫女様は迷惑かけていませんか?』


『かけてないよ!』


『はいお静かに。』




ミナの羅針盤に変化が起きた。真っ直ぐ進んでいるはずなのに針がいきなり北から西に向いた。目標が動くとはいえ、体力が衰えている可能性が高いのに高速で行き先が変わるのはおかしい。




『なんでですか!?』


『もしかするとこの森林自体の位置がパズルのように分かれていて空間ごと入れ替わっている可能性がある。』


『もしかして勘ゲーか?最悪だな。』


『ワフゥ?ワンワン!』



突然ユンタが天音の腕から飛び出して走り出して霧の中に消えていった。




「ちょ、ユンタ!」




天音もその後を追いかけて消えた。




『もしもし天音?天音?!』




既に迷ってしまった。




幻影獣 夢見亀ドリームタートルLv112 が霧の中から現れた。加えてなぜかほとんど解析不明だった。


俺らよりも高い。一体レベルはどこまであるのかと思う。


夢見亀ドリームタートルの背中の虹色の宝石が輝きだした。周囲に魔法陣が出現し中級魔法の全魔法が四方八方から放たれた。


火炎砲は水斬をまとわせた大剣、鎌、氷結戦術アイスバトラで氷強化した足で振り払い相殺。


氷結砲は属性威力強化(炎)で強化した炎壁ファイアウォールを仲間の周囲に円を描くように発動させて全て防いだ。


上空から降り注ぐ雷撃は智一はステップを踏んで軽やかに避ける。エルは鎌をプロペラのように回転させて電気を離散させた。




「がんばれ皆!」


「巫女も。」


「はえ?」




俺には追撃電球に追い回されて後ろに跳びつつマイナス粒子で威力を弱めて手の甲で弾く。

お前も仕事しろということで巫女を落とした。




「意地悪ぅぅぅ!」




ステータスもだいぶ上がっているので身体装甲を使用しなくても素手でかき消せる。


…霧が強くなってきた。

視界が悪くなってきたな。智一達の姿も虚ろにしか見えない。


『智一、大丈夫か?智一?』


『…』


まさか…

エルや智一、ミナや夢見亀ドリームタートル、巫女の影は全て幻影でそこには誰も居なかった。

…まずいな。




霧の中薄っすらと見える木や道を頼りに緊張を持って前へ進む。

前に調べた生物に幻惑を見せる寿限無草や方向感覚を狂わせる無印草が生えている。


最初は自分がどこに進んでいるのかわからなかったが魔法耐性が上がり空間魔法:空間把握を覚えて先ほどよりも明確に前に進んでいる感じがした。




「うっ、うううっ」




どこからか少女の鳴き声のような声が聞こえた。


幻想の森林ならではの騙し討ちかもしれないがそれ以外の手がかりがないので声の聞こえる方向に進んだ。

声が近づいている感じがしない。体力が持ってかれていくばかり。まだへばらないけどね。


その時見覚えのある少女が俺の前に現れて俺を誘うようにステップしながら離れていく。


その少女を追いかけるとだんだん声が近づいてくる。


強い光が差し込み、少女は光と共に消えていった。


霧がほとんど無く、草原が少し広がる明るい場所に着いた。


さっきの子が教えてくれたのだろうか。例え幻覚だとしても悪い気はしなかった。自然とそう思えた。


そこにはボロボロの薄汚れた着物を着た白髪の獣人【狐】の少女が泣いていた。


空間把握で周囲を確認したが、魔物が寄ってくる様子はなかった。




「あの、大丈夫ですですか?」




少女は顔を持ち上げて俺の方を向いた。依頼書に書いてあった特徴と一致する。間違いなさそうだな。


少女はまた泣き出しそうになった。




「うっ、うっ。」


「あの、えと大丈夫ですよ。助けに来たのです。」




少女は突然俺にしがみついた。そのまま座り込んでしまった。




「おっと。」




安心したのか眠ってしまった。それもそうだよな。森に子供一人きりはきついもんな。


少女の近くには食べた後の果実が転がっていた。

一人でも頑張って生き延びる決意があったのだ。

昔の俺ならとっくに飢え死にしていたな。




少女をおんぶして連れて帰ろうとしたが近くに魔物の気配があった。

少女を一旦下ろして結界をはった。


目を閉じ気を集中させて相手の位置を探る。すると少女のすぐ後ろにあった。

真後ろではない、隠密でもない…地面でもない。まさか。


悟って少女を片腕で抱えて少女の影を大剣で突いた。

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