第二十八話 幻想の森林

ファミリーホテルに泊まり、次の日を迎える。




昨日は散々だった…

天音と巫女も同じ宿泊場所だった。別にそこは問題ではない。


問題は浴場の時と寝室に居る時だった。



若い子供から年寄りの方まで温泉を楽しみ、ここの人と湯の暖かさに安らぎを感じる。

…だからおっさんらしいなんて言われるのかもな…




「あんた…昼間の炎飛竜フレイムワイバーンの群れを倒してた兄ちゃんだよな?格好よかったぜ!」


「どうも。」


智一は若い男性から人気であった。格闘術だけでほとんど倒していた姿に憧れを感じる者もいた。


ファンサービス…では無いが誰にでも平等に接して親近感を持てる。それが智一のよいところだと思っている。


俺はおじさんとサウナに行き、その後に外の浴場で涼しみながら温まっている。

世間話だが、それでもおじさんと楽しく会話できた。




「…そうか。兄ちゃんは兄ちゃんで苦労してるんだな。ま、誰でもそんなもんか。」


「それでも俺はそんな仲間が好きです。」


「うんうん。立派だよ。」




このままのんびりと過ごすはずだった。




女性の方は




「老若男女、いろんな人が来ていますね。なんだか安心感があります。」


「そうだね。それにここならファミリーでのだから除かれる心配も無いしね。」


「私の見る限り、男女風呂の間には強力な結界が張ってあるので壁を超える事もできないし…」




巫女は竹の壁の上を見つめている。そして湯船から出た。




「巫女様?まさか…」




巫女は高く飛んで、術式を発動した。




(いける!私の力ならこの先の淳也君に出会える!)


「術式 結界破壊!!」




風呂の周りに張られていた結界が破壊された。一人の阿呆によって。




「巫女、あんた何やってんの?!」



巫女が男湯に侵入してきて、裸を見た思春期の若者共は鼻血を吹いてしゃがみ込んで(また喜ぶ者もいた。)おっさん達は急いで逃げた。




(結界魔法は…破られるから放水最大出力で押し切る!!)




温泉の湯を利用して威力と密度を増す。


俺は一線を超えないためにも左手に水魔法最大限まで高める。




「淳也君、迎えにきた…」




しかし、向こう側にいた天音が妖魔の手で巫女を捕まえて引き戻す。




「駄目ですよ、ここで一線を越える事は。」


「あと、もう少しだったのに…」




悔しそうに帰る巫女。性癖のレベルが尋常でない。


巫女はホテルの結界を勝手に壊した事、そして男女両方に迷惑をかけたのでお客、俺ら、従業員の方々から酷く注意された。

問題児には手がかかる。




部屋に戻る時も




「淳也君、私と寝y…痛い痛い!」




天音が巫女の髪の毛を引っ張って部屋へ連れて行った。




「淳也君、度々迷惑をおかけして申し訳ありません。

ほら、行きますよ!」


「j、淳也君~。」


「あはは…」


「お前も大変だな…」




それから二、三度俺の部屋に侵入しては俺のベッドに許可無く入ってくるので落ち着いて寝れなかった…


天音が頑張って連れ出してくれたことに感謝している。


 


今朝、俺からちゃんと俺の気持ちを伝えたら酷くショックを受けて反省しギルドまで下を向いていた。


可哀想なので慰めようと頭を撫でたら犬みたいに元気が出た。

世話が焼けるよ。



とりあえず依頼を受ける。




「なにか依頼は…ん?」




報酬金額 100億相当の奇妙な依頼があった。


この街から5㎞離れたところにある幻想の森林に迷い込んだ依頼主の娘さんを見つけ出してほしいと。

手に取ると、受付嬢さんが教えてくれた。




「その依頼ですね。簡単そうに見えて実はかなりの難易度なんです。幻想の森林はご存知で?」




よくわからない…が名前から察して迷いの森、又は誘惑の森みたいな感じなのだろう。

その考えを受付嬢に伝えた。




「お察しの通りそのどちらもなんです。」


「具体的には魔素の偏りでできた。濃い霧に包まれて幻想系の能力を使う魔物や植物がうじゃうじゃいる危険地帯。」




エルによるとその森の奥には大昔賢者が使っていた魔道具や魔法書物が眠っていてそれが一般の人の手に渡らないようにするために賢者がそうしたと言い伝えられており 冷静に判断できる者、目の前に自分が欲しいものを突き出されても惑わされない者 そして勇気のある者のみ到達できるらしい。




「なんだかファンタジーの世界らしくなってきたな。」




楽しそうにする智一。その部分に関して共感できる。




「ちょっとばかり王道すぎる気もするけど。まあ、それがいいんだけどね。」


「で、どうするの淳也君?」


「依頼主の娘さんはもう三日も森の中らしいですし、心配なので私は行きます!!」


「そういうと思ってた。例え分が悪くても一つの命を守れるなら俺は優先したい。」


「決まりだね。」


「巫女も行くのか?」


「当たり前でしょ智一。淳也君が行く所なら火の中水の中、嵐の中お風呂の中どこにでもついていくよ。」


「風呂は遠慮する。」


「そんなぁ...」


「巫女様が行くのなら私も行きますよ。それに宇井家のしきたりとして大切な命が危険にさらされる時、

例え他人の命であろうと最善を尽くして守れとありますしね。」


「暗殺者なのに?」


「命を危険にさらす輩を殺しているだけです。」


「そうだな。よし、この依頼六人で受けよう。」


「かしこまりました。それではここにサインを。」




俺ら六人は暗殺者だけれども命を助けに行くという矛盾した依頼を受けるのであった。人助けは大事だしいいよね。




幻想の森林前に着いた。

他のハンター達もこの依頼を受けいるらしく、俺ら含めて計十八組来ている。




「このクエストクリアすりゃ儲けもんだぜ。」「依頼主は妖魔王国の稲荷市長らしいぜ。」

「ってことは娘奪って奴隷にすりゃあ儲けもんじゃね?」「報酬を受け取った後にこっそりとすり替えて売買でもするか。」




物凄い下種な計画をこそこそと企む輩が後ろに居る。




「最低ですね。」


「淳也、あいつらを絞める許可をくれ。」


「私には拷問する許可を。」


うんいいよ。それじゃあ、智一と巫女はあいつらを潰してきて…ってそんなことさせねぇよ。

あいつらにはまだやった証拠無い。そんなことしたら俺らが一方的にいじめた事になり逮捕されてしまう。


俺はそのことを二人に伝えた。




「それに私たち暗殺者がむやみやたらに目立ってしまうのは身を亡ぼすことにもなりかねない。」


「わかったよ...」


「仕方がない。今回は淳也君に免じて許してやろう。」




理解してくれて良かった。一応コロブスのギルマスにも頼んで、俺らの事は公にしないよう頼んである。

それも無駄にしないためにも注意を払わなければならない。


なので殺すのは森で迷ったところを近くの魔物に喰わす感じで行う。

てかなんで巫女はこんなに上からめせんなんだ?




そう会話していると、危ない輩に向かうクールな騎士団長装備をした女性とその従者。




「貴様ら、何こそこそしている。」


「いゃあ別に、森林で迷わないように注意を...」


「そうか。」


戸惑っているが、そんなに偉い人なのか?解析。

どうやら今回の依頼主の直属の護衛騎士団でしかもデュラハン。名はクリア・クリスタル


Lv109 なかなか強い。


首は金具でくっつくいるのだろうか。




「えー…それでは説明をさせていただきます。」


「市長、まずは名乗りからです。(小声)」


(面倒くさい…)


「私は、えー市長のバルガス・アロマンと...申します。」




この気の抜けた暗いスーツ姿の男性の短絡的簡易的な説明が終わり依頼開始した。

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