第十七話 成長

大猪と植物亡霊が迫ってきた。


「今だ!」


「はあっ!」



エルは鎌で大猪の足を切り落とした。


大猪は前に倒れ込んだ。上に空いた空間スペースを逃さず飛び移った。

植物亡霊は慌ててブレーキをかけたが、かけるのが遅く大猪に躓いた。




「淳也君の勘、見事当たったね。」


「大猪が妙に毒ガスに反応していたから気になったんだ。」


『いいか淳也、目標ターゲットに苦戦したときまず最初に急所は狙わず足を切れ。相手のバランスを崩して確実に急所を狙う。それがコツだ。』


小栗師匠がよくコツを教えてくれたなぁ。

マジで感謝です。小栗師匠。




「とどめを刺すぞ、エル。」




俺とエルは息を合わせて大猪と植物亡霊に確実に刃を入れた。




      「「十字重斬クロスガンドレッド」」




二体の人造魔獣に六本の重い斬撃が降り注いだ。

体は六等分され灰と化して消えた。


改造された生物のなれの果てということだ。




「息ピッタリだったね。」


「ネーミングセンスがちょっと中二臭いけどな。」


「でも、こういうの大切でしょ?」


「まあ、俺も嫌いじゃないから大切ということでいいよ。」




なんとなくエルとは気が合うような感じがした。

智一の方は




「まだ…戦うのか。立つのか…」




上位配下はボロボロだった。勝てると錯覚していた。しかし智一は上位配下が思う以上の存在であった。智一はそういう奴だ。




「お前らのプライドなんかよりも俺らの方がずっと上なんだよ。」




智一もボロボロであるが、まだ諦めようとはしなかった。三人の上位配下と十数人の配下の猛攻を耐えて反撃し続け、今となっては智一とプライドの高い上位配下との一騎打ちになっている。


ミナとユンタは後ろで座り込んでいる。力と集中力を使いすぎたのだ。




「水魔法:……水流圧剣ウォーターソード。」




配下の手にはどこか力の無い水の刀があった。




「最後の…力…」




配下は最後の力を振り絞って智一に斬りかかった。




「悪ぃ。この先に俺らは進む。」




智一は刀を避け、配下の腹に一発拳を入れた。

配下は倒れた。




「そっちも終わったみたいだな。」


「まあ、かなり体力を消費したけどな。」


「お疲れ…さま…です…」




ミナが前に倒れ込んだがエルが支えてくれた。




「お疲れ、ミナ。」


「クゥン…」


「ユンタも。」


「とりあえず、回復薬で体力を戻そう。」




俺らは持ち合わせていた回復薬のおかげで動けるようになった。そしてレベルも上がった。

俺Lv90 智一Lv75 エルは…Lv1 ミナLv35 ユンタLv48




「おーい!」




ギルマスと騎士団、冒険者達が駆けつけてくれた。

配下達は確保され、連行された。




「なああんた。」




先ほど智一と戦った上位配下の一人が尋ねてきた。




「あんたは何でそこまでして仲間の為に戦える?」


「んなの簡単だ。身近な大切な人が命の危険にさらされるのに自分だけ試合終了じゃ後悔するからだよ。」


「っ!」




配下の一人は思い出した。自分が何のために悪に力を貸したのか。




(お父さん、お父さん!)


「なるほど。確かにこれじゃお前に勝てないな。」




配下は満足げに、そして少し悲しそうにしていた。




「そういえば蘭君達、例のデントという男を知らないか?」


「多分、上位悪魔アークデーモンと一緒に居る。」


「情報にあった悪魔か。なら我々も協力しよう。」


「ならDランク以上のハンターのみの協力をお願いします。」


「わかった。あと彼女は…」




ギルマスはミナに目を向けた。




「まだ…立てます。」


「ミナ、無理しちゃ駄目だ!」


「智一君の言うとおりここで引き返すべきよ。」


「私たちも君が十分頑張っている事は承知だ。だから…」


「十分頑張っているだけじゃ駄目なんです。私がここで引き返したら私が、私自身が成長できないんです。だから行かせてください。」




立つのがやっとなのにミナは共に戦おうとする。

俺らとの戦いで、この短期間で成長しているんだな。


「だけど…」




智一が言う前に俺が発言する。




「ミナ、この先に進む場合俺らはミナを守る事ができないかもしれない。自分の身は自分で守るんだ。そんなになってでも俺らと進むか?」


「……はい!進みます。」




ミナはその答えが当たり前だったように返事をした。




「わかった。なら共に戦おう。」




智一とエルはあまり乗り気でないがミナの気持ちに応えて賛成してくれた。




「蘭君、敵の居場所は掴めているのかい?まあ、アジトまで掴んだんだしわかってるか。」




俺らとギルマス一同は敵の最深部に向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る