#2【裏】(2)

若様、犬山新九郎様は領主様の孫にあたる御方だ。

新九郎様がわたしたちの前に立つ。

わたしたちよりも上等な着物と羽織を羽織っている。

新九郎様はゆっくりとその場にいる者たちを見回す。


「っ!!」


わわっ、目があった。

慌てて地面を見つめる。

新九郎様の声が聞こえてくる。


「今日も貢ぎ物を持ってきてくれたこと、感謝する。そして、すまない。皆には苦労ばかりかける」


わたしが目線をそろりと上げると、新九郎様が頭を少し下げていらっしゃった。

顔もお辛そうだ。

新九郎様はいつもわたしたちのことを思ってくれている。

さっきまで貢ぎ物への不平不満を言っていた人たちも「いえいえ」と恐縮するばかり。いや、あれは新九郎様に声をかけられて照れているのかも。

一人が新九郎様に問いかける。


「領主様のお具合はどうですか?」

「よくない。意識が戻る間隔も長くなってきている。もう長くないだろう。皆も覚悟はしておいてくれ」


その言葉にみんなが頷く。

領主様が寝たきりになり顔を見せなくなってもう久しい。

今では領主様の仕事は、領主様のご意向に沿う形で新九郎様が引き継いでいる。

これから行う儀式もそのうちの一つだ。

新九郎様が2つの祭壇の方へ向き直る。

祭壇のそれぞれには今朝、村で採れた野菜が均等に置かれてある。


「それでは始める。――創造神にこいねがう。禁裏への接続を。二条御所への接続を。創造神に再度、こいねがう。我が領の実りの4割5分を禁裏への貢納として。もう4割5分を二条御所への貢納として。――転送」


新九郎様の祈りに創造神様が応えてくださり、祭壇が淡く光る。

十数秒して光が収まると祭壇の上はさっきよりも遙かに寂しくなっている。

禁裏と二条御所、つまり朝廷と幕府へ貢ぎ物を贈ったのだ。

ここにあるのはその残りの1割。

それをわたしたちで分け合う。

まずは新九郎様が己の分を取った。

わたしたちに配慮して、いつもささやかな量だ。


「明日もまたよろしく頼む」


そう言い残して、新九郎様が広場から立ち去っていった。

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