#2【裏】(1)
視点:花咲早希
お腹すいたなぁ……。
わたし、花咲早希はここ最近そればかり考える。
隙間風が吹き込んでくるボロ小屋。
その中でぐぅぐぅ鳴るお腹を抱えるようにして眠れぬ夜を過ごす。
朝になるとふらふらとした足取りで畑に向かう。
野菜を収穫していく。
だけど、土が悪くて実りは少ない。
そしてそんな少ないそれらもそのほとんどがわたしの口に入ることはない。
わたしは収穫したものをかごにのせて広場へ行く。
広場には犬山荘に住む女の人たちが集まっていた。
みんな、それぞれの畑で収穫したものを持ち寄ってきている。
広場には2つの祭壇がある。
1つは太陽のモチーフが描かれたもの。
もう1つはセーマン(星印)が描かれたもの。
太陽の方が朝廷の祭壇で、セーマンの方が幕府の祭壇だ。
わたしたちは2つの祭壇に均等になるように気をつけながら貢ぎ物を置いていく。
「自分たちが作った物を食べられないなんて、やりきれないねえ」
「仕方ないじゃない、帝のおかげであたしらは生きてんだよ」
「そうさね、帝の加護は有り難い話さね」
「でも最近おかしくないかい。土地はやせていく一方だし、村の結界も危ないって話じゃないかい」
「貢ぎ物はちゃんとしてるんだけどねえ」
女の人たちの話にあった帝とは、二条の都におわす御方。
なんでもこの世界を創った創造神の血を継いでいるそう。
帝の加護は畏れ多く強力で、二条の都から離れたこの犬山荘にも恩恵が及び、結界や土地の恵みをもたらしている。
……いや、「いた」。
ここ数年、帝の加護は弱まっていく一方で、土地はやせてしまい、畑で思うように野菜が採れない。その上、村を守る結界も脆弱になっているらしく、村の人たちはいつ妖魔が村に入り込んでくるか不安に思っている。
もちろん、わたしもだ。
「でも、幕府にまでこんなに貢ぎ物をやる意味はあるのかねえ」
「そりゃあ、だって、護符がもらえるんだろう?」
「護符なんてちっともくれないじゃないかい。前にもらったのはいつだい」
「確か二月前にやっと1枚だけ」
「ほれ見たことか、領主様は騙されてんのさ」
幕府の将軍様は優れた陰陽師だと聞いている。
将軍様が作られる護符は妖魔に対して絶大な効果があるという。
村の結界が怪しくなって以来、妖魔が村に入り込んだ時の備えとして、領主様は幕府へ貢ぎ物を贈るようになった。
将軍様の護符を見返りにもらえるのを期待してのことだ。
けれど、結果はあまり芳しくない。
わたしたちが食べるギリギリまで貢ぎ物をしているにもかかわらず、だ。
「お喋りをやめな。若様が来たよ」
一人の少年が広場に現れた。
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