第41話

「すみません...... 私は負けたのに」


「構わないよ。 剣が選んだんだから。 それより少しさわらせてもらえないかな」


(剣が選ぶというのは比喩じゃなかったのか...... だがどうしてディラルを選んだんだろう?)


 恐縮していうディラルから剣を預かる。 危機感は感じないので抜こうとするも、抜けない。


「どうやら、私には抜けないな」


「ええ、アドミングさまのお話では、勇者以外には抜けないそうです」


 そうディラルがいう。


(やはり何か胸騒ぎがする...... 視てみるか)


【残留思念感応】《サイコメトリー》で情報を読み取る。


(なんだ...... アドミングとディラルの思念以外なにも感じない。 作ったものの感情がない...... 誰にもつくられてないということか。 神がつくったとでも、ただ......)


 わからないままにディラルに聖剣をかえす。


「これは抜かないほうがいい......」


「えっ? 確かに胸がざわつく感じがしますが......」


 ディラルも胸を押さえている。


(アエルに反応しているのか...... やはり聖剣が所有者を操っているということか、ならザルギードから剣を奪えば......)


「とりあえず、一度私たちの町へいこう。 ダルドンさんやケイレス、セリナにも話を聞きたい。 ディラルも来てくれる?」


「えっ? ええ、はい」


 私たちは町へととんだ。


「ここは......」


 急ぐため【瞬間移動】《テレポート》で町へと飛ぶ。 ディラルは口を開けて町の様子を眺めている。


「リンどうだった?」


 警護のケイレスが近づいてくる。


「ええ、ディラルが勇者になったよ」


「うそ!!」


 そうケイレスはディラルを見ている。


「ほ、ほんとうだから。 ほら聖剣」


 ディラルは必死に剣をみせた。


「へぇ、リンが勇者に選ばれると思ってたけど」


 ケイレスは意外そうにディラルを見ている。


「帰ってきたか」


 ダンドンさん、とセリナもやってくる。


「ああ、ダンドンさん。 少しこの剣をみてもらえるか」


 ディラルに渡してもらう。 やはり剣を抜こうとするも抜けない。


「ふーむ、これが聖剣か...... 抜けんな」


「何かわかりますか?」


「......いや、ただ細工や模様が正確すぎる。 人間が作ったむらのようなものが全くない」


 そうダンドンさんは感心して、ディラルに剣をかえした。


「なんだろう......」


「どうしたディラル?」


「ええ、さっきから胸のざわつきがひどくなってる......  人々の歩いているのをみて動悸がはげしくなっている」


 ディラルは胸を押さえて苦しそういった。


(もしかして魔族に反応している...... 離れるか)


「そうか、少し疲れたんだろう。 城へと送るよ」


 私が近づくと、ディラルは剣の柄をもつ。


「なにをしているの?」


「わ、わかりません...... 勝手に手が......」


 震えながらディラルは剣を抜こうとする。


「まずい!!」


【瞬間移動】《テレポート》するために駆け寄ると、ディラルは剣を抜きはなつ。


「うわぁぁぁぁ!!」 


 頭をかかえながら苦しみだした。


 そしてディラルは一瞬でアエルの前に飛び黒い剣をふるう。


 ギィン!!


 ケイレスとセリナが剣で防いだ。


「【瞬間移動】《テレポート》!!」


 その場にいたものたちを森へと転移させた。


「フゥ! フゥ! 殺す...... ダメだ...... リンさん、はなれてください...... おかしい、感情が......」


 ディラルはこちらを苦しげにみる。 なにかに抗うその目は赤く充血している。


「【念力】《サイコキネシス》!」


「がはっ! ダメだ!! もう...... 押さえきれない...... 早く殺して......」


 体の拘束を引きちぎるようにディラルは動く。


「しかたない!」 


 ケイレスは鞘でディラルを殴り付けた。


「ぐう!!! ま、魔族殺す......」 


「気絶しない!?」 


 更に動こうとするディラルからぶちぶちと音が聞こえる。


(くっ、筋繊維がきれる音! ザルギードより強い力! このままだとディラルが死ぬ! あの剣を!)


「ごめん! ケイレス、セリナ少しだけ動きを止めて!」


「わかった!」


「ええ!!」


 私は【念力】《サイコキネシス》をとめ、【瞬間移動】《テレポート》でディラルのそばに飛ぶと、セリナとケイレスがおさえている剣にふれる。


「【離転移】《アスポート》、ぐっ! なに!?」


 剣を離れたところに飛ばした。


「うっ...... あっ」


 ディラルは痙攣しながら、その場に倒れた。


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