第42話
「それで回復させたんだけど......」
私たちはナーフの町に戻ると、ベッドでねるディラルをみる。 かなり呼吸があらい。
「ええ、肉体的には...... ですが意識は戻りません」
町の診療所でマーメルがそういった。
「やはりあの剣のせいか......」
セリナが立て掛けた石をみていう。 私は【遠隔念動力】《テレキネシス》で触らないように聖剣を鞘に収め石のなかにいれた。
「ああ、間違いない。 私も少し刃に触れたけど、何か意識に流れ込んでくるような感じがした。 抜いたあの剣に触るのはまずい」
「聖剣が勇者をあやつってるってことか?」
アエルがそういうと、ケイレスはうなづく。
「みたいね。 それでこれからどうする?」
「ザルギードから剣を奪う。 そうすればゼヌエラとの戦いは避けられることがわかった」
「よし! いこう!」
アエルが手を上げる。
「アエルはだめだよ」
「ええ! どうしてだ!」
「アエルがいるとザルギードが目覚めるでしょ」
ケイレスがそういった。
「ああ......」
「私がいくわ」
「私もだ。 ザルギードを、いやザルギードさまを救えるかもしれん」
ケイレスとセリナがそういう。
「そうね。 不足の事態があるかもしれない。 ついてきて」
不満そうなアエルをアストエルにたくして、私たちはゼヌエラの城へととんだ。
【偏光念力】《ルクスキネシス》で姿を消し、ゼヌエラの城へととび玉座の部屋へとむかう。
「おかしいな...... 衛兵が多い」
小声でセリナがつぶやく。
「この間、暴れたから警戒はしているんだ。 早くザルギードから剣を奪おう」
中央の部屋に入ると玉座に座るザルギードがいた。
(これは心の声...... ザルギードに集中しすぎたようね......)
私たちが近づくと、周囲に兵士たちが現れた。
「あなたたちか...... ザルギードさまを襲ったものは」
現れたのはフォグだった。 私は解除して姿を現した。
「ばれていたのね......」
「あれだけ暴れれば当然でしょう。 姿を消す魔法があるとはしりませんでしたがね」
そういってフォグはメガネを直した。 よくみると床に粉のようなものがまかれていて、足跡が見えている。
「あなた方は何者です? いや、あなたは騎士団だったセリナか......」
フォグは驚いている。
「そうです。 フォグさま。 お久しぶりですね」
「ラクエスからの暗殺者ということですか......」
「別にそういうわけじゃない。 その剣を奪いにきただけ」
ザルギードのもつ剣を指差すと、フォグは怪訝な顔をしている。
「聖剣...... それを得てどうするつもりですか? 勇者にでもなるというのですか」
そう嘲笑したように、口元に笑みを浮かべた。
(剣のことを知っているのか?)
「剣が勇者を操っているのを知っているの?」
「......ええ、あなたも...... 厳密には剣が所有者の身体を底上げするものですがね」
「それでザルギードさまは死にかけているのだぞ!」
セリナが声をあらげる。
「いいえ、もう死ぬ...... いえ死んでいるようなもの」
「どういうこと?」
ケイレスは聞いた。
「聖剣は人を越えるすさまじい力を与えます。 ですが、その分知能や理性を失わせただの人形とし、肉体を不死にすら近づけます。 ザルギードさまはもはや剣に生かされているだけ、その剣を奪えば力を失って死ぬだけです」
そう悲しげにフォグがそういった。
(嘘をついてはいない。 それならもうザルギードは......)
「そんな......」
セリナは悲痛な声をだす。
「だったら、この苦痛から解放してやるべきでしょう」
「それはまだ困るんですよ。 モンスターがこの城を攻撃してくるからです。 ザルギードさまにはモンスターを倒してもらう役割がある」
「もはや、死んでいるようなザルギードさまに、そのような非道を行おうというのか!」
セリナが語気をつよめる。
「......ええ、それはひいては人間のため、いえザルギードさまの願いでもあるのですから」
フォグがセリナをみすえながらいう。
「どういうこと? 魔族をコントロールすることと関係があるの」
「......なぜそれを、あなたも古代の文献を解読したのですか?」
無表情だったフォグが顔色をかえる。
「ぐ...... ううっ」
動かなかったザルギードが動き始める。
「まさか、来るのか......」
フォグが焦る。 そのとき、部屋に兵士がはいってくる。
「フォグさま! 魔族の進攻です!」
「こんなときに...... いまはあなたたちと話している暇はありません。 魔族の進攻を止めねば、そのあとお話ししましょう」
「しかたない...... セリナごめん」
「くっ......」
「城の外へ空からなにか来る!」
窓から外を見ると、雲のように小さな塊が見える。 それは竜のような姿をしていた。
「あれは...... ワイバーンの群れ」
そう兵士たちは呆然としていった。
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