第40話

「相変わらず、むちゃくちゃな魔法だな」


 あきれたようにアエルがいった。


「ええ、正直勝てる気がしません」


 そうこちらに近づき自信なさげにディラルはいう。 


「どうやら、半分には残れたね」


 そのあとも勝ち上がったものたちが更に対戦していき、残り4人までになった。 


(アエルとディラルがあたるのか)


「あなたかなりできるわね。 無詠唱の魔法なんて初めてみたわ」


 私の対戦する杖をもった女性がそういう。 


(魔法使いか...... かなりできる。 しかも自信があるようだ)


「いくわよ」


 ーー風よ、汝の身を震わせ、はためかせよーー


「ビルド、ウィンドウィング!」


(さっきの雷撃をうけないように風の波で距離をとる! そして立て続けに......)


「【空念力】《エアロネキシス》」


 風がその波をかきけし、女性を吹き飛ばした。


「きゃああああ!!」


(ごめんね。 今は知りたいことがあるから。 ん? なんだ?)


 女性が倒れるのをみると、周囲がざわついている

 

(嘘だろ。 賢者アベリアスを魔法で圧倒するなんて......)


(十年前の大戦で活躍した七英雄の一人だぞ! 勇者は彼女だと思ってたのに......)


(あの方を容易く倒すなんて、何者だ...... 一体)


 心を読むとそう考えているようだ。


(まずいな。 それほどの人物だったのか、もう少し苦戦するべきだったか)


 少し後悔した。


(アエルとディラルの戦いが始まったか)


「おおーー!!」


 ディラルの剣がアエルを狙う。 それをアエルは軽くかわし短剣できりつけた。


「くっ!」


 ーー大地よ、固い汝の身を流して、とらえよーー


「ビルド、ストーンハンド」


 アエルが唱えると床の石が変化し、ディラルの足をとらえる。


「ぐっ!」 


 その隙をつき、アエルが短剣でせまる。


(【念力】《サイコキネシス》)


 一瞬、アエルの動きがとまり、ディラルの剣がアエルの短剣を切り裂いた。



「今のは、リンお前だな!」


 アエルは怒って私の方にやってきた。


「アエルのが勝ってどうするの。 勇者になるつもり?」


「あっ......」


「最悪、あの剣でアエルが魔族だということがばれるよ」


「うっ......」


 アエルが困った顔をしている。


「では、ディラルどのとリンどのこちらに」


 司祭、アドミングに私たちは中央に呼ばれた。


「これは勝った方が聖剣に選ばれるということ?」


「いいえ、あくまでも最後に選ぶのは聖剣です。 これはあくまで聖剣が最低限の肉体の強さをはかっているだけ」


 そうアドミングは右手にもう聖剣をみながら答えた。


(これは、そういうていなのか? それとも......)


「では、胸をお借りします!」


 そうディラルは剣をぬいた。


「ええ」


(どうするか? 正直あの剣を調べたいが、もし催眠などの効果があるとな。 多分私の【霊的知覚】《クレアセンティエンス》で回避できるとは思うけど......)


 その間もディラルはその斬撃をくりだしてくる。 


(心が読めるからかわせてはいるが、魔族には劣るけれど、この世界の人間の身体能力はすごいね。 普通の人間の動きじゃない)


 そう考えながら、剣をかわしていく。


(ディラルには悪いが、やはり私が手に入れるか...... ディラルがあの剣でおかしくなるのも阻止したいし)


「【念力】《サイコキネシス》」


 ディラルの動きを止め、吹き飛ばし地面へと転がす。 すぐに立ち上がり剣をふるってくる。 


(タフだな。 普通の人間ならさっきので気絶したはずなのに)


「【冷念力】《クライオキシス》」 


 ディラルが凍りついた。



「ふぁ! はぁはぁ......」


 試練が終わりディラルを回復させた。


「ま、まいりました。 やはりとても叶わない」


「まあ魔法だから...... 剣技ならとても叶わないよ」


「ですが敗けは敗けです」


 笑顔ではいるが、拳を強く握っている。


(悪いけど、廃人にしたくはないんだ)


「では二人ともこちらに」  


 私とディラルがアドミングに呼ばれる。


「では、聖剣にどちらがふさわしいか、決めてもらいましょう」


(どういうこと......)


 ディラルもわからないという表情をしている。


 アドミングは私たちの前で両手で剣を上に向けもつ。 すると剣から光りが私とディラルの体に上から下へと放たれた。


(なんだ......)


 光りが収まると、剣はアドミングの手から浮きディラルの元へと渡る。


「えっ......」


「剣は選びました。 次の勇者はディラルどのです」


 かしづくアドミングにいわれてディラルは困惑しながらも剣をつかんだ。

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