0-3:読まなくてもOKです【脚本形式】
◯回想・自宅・寝室
ルソーの父の元探検者仲間たちが自宅に押しかけ、母をレイプしている。
ビリビリに破かれた母の服。
ショックで理解できない幼少のモネ。
ルソー「母さんを離せよ、クズ野郎!」
男1「おいおい、そんな物騒なモンしまえよ」
父の愛刀『鬼切丸』をルソーは振り回す。
むなしい攻撃。男に当たっても服が着れるだけ。神力の鎧には刃が立たない。
ルソー「ぶっ殺してやる!」
男1「ウルセェ!」
ルソー「うっ!」
母「ルソー!」
鳩尾に一撃。夕食のスパゲティの吐瀉物がシャツにかかる。
ルソー「が、があざんを、ばなぜ……っ!」
なおも立ち上がり反撃するルソー。
モネはただ動けず固まっている。
手に握られたウサギの人形。
ルソー「おっさん、汚いソレをさっさとしまえ……。噛みちぎるぞ!」
男2「このガキから殺すか?」
襲いかかるルソーを蹴り飛ばすが、床を這ってまた襲いかかろうともがく。
母「やめて! 私は好きにして良いから!」
男2「ウルセェ!」
母を
男3「おい、美人が崩れるだろ。あんまり顔を殴るな」
男1「あぁ〜、子供の前で母親を犯すのって、マジでたまんねぇな!」
男3「へへっ、あの娘はどうする?」
モネを親指で指差す。
男2「俺はパス。まだガキすぎだ。ま、ドンキーの奴は好きだろうけどな。ガハハッ」
男1「ハハッ、さすが外道。ロリコンへのプレゼントにするとはな」
母「やめて! お願いだから……!」
男1「じゃあ、このガキを大人しくさせろ」
男の太ももに噛みついて離さないルソー。
腕や別の箇所にも歯形がついている。
男1「流石に痛いんだよ」
苛立ちで声が震える。
拳を振り上げ、神力を貯める。
子供相手だと死にかねない威力。
母「……ルソー、母さんは大丈夫だから」
鼻水と涙でぐしゃぐしゃのルソー。
母「母さんは嫌がってるじゃないか……!」
憎しみのこもった眼で男たちを睨みつける。
母「ルソー、アネモネを連れて隣の部屋へ行っててくれる?」
懸命に搾り出す優しい声。
ルソー「いやだ!」
母「お願い。良い子だから……ね?」
ルソー「(父さんのクソ野郎! 何が『〈才能〉がなくたってダイバーになれる』だ……! 母さんをこんな目に遭わせて!)」
男1「恨むんなら、お前の親父と、助けてくれないカミサマを恨むんだな」
見下す男。
男1「無宗教のお前らが悪い」
爪が食い込むくらいに拳を握りしめるルソー。
母「約束して。私が満足させてあげるから、子供達には手を出さないって、神に誓って約束して!」
男1「ヒューッ、さっすがぁ! 良い女だ」
男2「俺は誓うぜ。イラッティ・ムームの名において」
男1「ノイズマーズの名において誓う」
男3「ブラー・ディズィーの名において誓う」
神力の光で部屋が包まれる。
男1「おい、早くしろよ!」
母「少しくらい待ちなさい!」
ピシャリと黙らせる母。
男2「へへっ、たまんねぇな」
母「ルソー」
母がルソーの頭に手を置く。
母「ごめんなさい、ルソー」
ルソー「……イヤだ」
母のこんな姿を見たくないから、顔を床に向ける。
母はルソーの額に口づけをする。
母「お母さん、ルソーにはこんな姿見られたくないから……。ごめんね、母さんわがままで」
ルソー「母さんは悪くない!」
母「ごめんね、ルソー」
母の頬を涙が伝う。
母「アネモネを、連れて行って」
ルソーは男たちを一瞥する。
ニヤニヤと笑う男たち。
ルソー「ごめん、母さん。ごめん……」
ギリリと軋む奥歯。
手のひらからポタポタと床に滴る血。
ルソー「(〈才能〉を手に入れてやる。とびきり強い〈才能〉を……。もう二度と踏み躙られない強さを――――ッ!)」
モネの手を引いて連れ出すルソー。
隣の部屋から漏れ出る男の笑い声。
男3「まったく、ライコウにゃ勿体ねぇ女だよ、アンタは。ずっと抱いてみたかったのさ」
男2「願いが叶ったな」
母「いやっ……せめて避妊草を」
下品に笑う一同。
男3「おいおい、やる気満々じゃんかよ」
ルソーは震えるモネを抱き寄せ、耳に手を当て塞ぐ。
母が喘ぐ声。
モネの泣き声。
噛んだ唇からは血が滲み出る。
この後、不快な音が数時間続いた。
そして約一年後、母はアンクを出産し、間も無く衰弱死した。
× × ×
◯地上区画・路地裏(夕方・雨)
恐怖で動けないモネ。
モネ「……やめて、ください」
憲兵「やあーっと従順になってくれたね。よしよし、お利口さんだ」
憲兵は髪を撫でて、そのまま香りを嗅ぐ。
モネ「(あぁ、母様もこんな気持ちだったんだ……)」
憲兵「あぁ、イイ! いいよ、キミ! 極上だ!」
モネの首筋を憲兵の舌がなぞる。
モネ「(助けて……)兄者……」
憲兵「んん〜?」
憲兵の首筋を、ナイフの切先がなぞった。だが、薄皮一枚が切れた程度。
ルソー「死ねよ、お前」
憲兵「はえ?」
ナイフが憲兵の眼球に突き刺さるが、少し怯ませただけ。
ルソー「ちっ、硬ってぇな。(少なくとも加護持ちか)」
憲兵の顎を側頭蹴り。モネから引き剥がす。
ルソー「モネ、大丈夫か⁉︎」
モネ「兄者!」
ルソー「今すぐアンク連れて逃げろ! こいつ、ヤバい!」
暗い路地裏で、憲兵の目が光って浮かぶ。
憲兵「……なんだい、キミは? 邪魔しないでくれるかな?」
ルソー「くそがっ」
飛び出すアンク。
憲兵「動くな」
神力による威圧。
たった一言で、ルソーは膝をつく。
踏み出す憲兵。地面にルソーを叩きつける。馬乗りになり、何度も殴る。
憲兵「僕の……僕の邪魔をしてっ! スラムの犬風情がぁ! 僕に!」
ルソー「ぐはっ……ぐっ(なんて力してんだ……)」
飛び散る血。
抵抗しても無駄な力量差。
ルソー「(俺に〈才能〉があったらこんな奴……)」
モネ「兄者!」
モネが木材を拾って憲兵の頭を殴る。しかし、逆に砕け散る木材。
憲兵「ダメダメ、キミは後でゆっくり構ってあげるからさ」
神力の威圧。
崩れ落ちそうになるモネ。それでも立ち上がり、首を絞めて落としにかかる。
モネ「くっ……!」
赤子の手をひねるように引き剥がされ、そのまま首根っこを掴まれる。
そしてルソーの横に倒された。
憲兵は二人の顎を掴み、視線を交差させる。
憲兵「この駄犬、キミの彼氏かな?」
ルソー・モネ「……」
憲兵「キミが犯される様をじっくり見せてあげようね〜」
ルソーは憲兵の顔に唾を吐き、不敵に笑う。
ルソー「やれるモンならやってみろ……。お前の小っさいナニを先に切り落としてやるから」
憲兵の殴打が再開した。
ルソーの意識が飛びかける。
一方、アンクの意識が戻る。
アンク「うっ、ぐぅっ……」
血の混じった、ほとんど液体の吐瀉物を吐く。
アンク「(なに……あれ?)」
殴られる兄と、横たわる姉を見る。
血溜まり。
転がっているナイフ。
アンク「兄ちゃん、姉ちゃん……?」
アンクの身体が発光し始める。
アンク「からだが軽い……?」
ナイフを拾う。
目標は背中を見せている。
神力がアンクの身体に宿る。
遠くで轟く雷鳴。頭上の空が一閃する。
駆け出すアンク。
アンク「うああああああああぁぁぁぁ!」
一息で距離を詰め、憲兵の背中にナイフを突き立てた。
憲兵「グアアアアアッ――――⁉︎」
ルソーの上に倒れる憲兵。
アンク「ああああぁぁぁぁあ!」
憲兵「があぁぁぁ! ぐぅぅぅああああぁぁあ!」
ナイフを何度も刺す。
気付けば憲兵は息をしていなかった。
呆然とする三人。
そこにロイとハイネが駆けつける。
絶句する二人。
ロイ「…………おい」
ハイネ「憲兵を、殺したの……?」
憲兵殺しは如何なる理由にせよ、極刑の大罪。子供も例外ではない。
大降りの雨が降り始めた。
× × ×
◯ピンクパンサーのアジト
ルソー一同はギャングのアジトへと連行されていた。
怯える一同。
アンク「兄ちゃん、オレが殺したのバレたのかな……?」
ルソー「シー、大丈夫だ。その話はここでは絶対にするな」
構成員1「おい、黙って歩け」
× × ×
ボスの部屋にたどり着いた。
乱雑に放り出される一同。
構成員1「最近地上で暴れていたのはこいつらです、ボス」
ルソー「おい、もっと丁重に扱えよな? 怪我人だぜ?」
構成員2「黙れ」
ルソー「おー、こわいこわい」
ブラスが怪我だらけの一行をじっと観察し、ルソーの上で目が止まる。
ブラス「『ピンクパンサー』って聞いたことあるか?」
ルソー「……この辺の地下スラムをシメてるギャングだろ? あんたがボスっぽいけど」
ブラス「……小僧、名前は?」
ルソー「ルソーだ」
鋼鉄製の人工心臓を持つと噂される人物。淡々とした口調。
ブラス「お前らのせいで、憲兵と上から注意喚起が来た。地上(上)で盗み過ぎたな」
地上の平民や貴族を狙ったスリのことを指している。
青ざめていく一同。
ハイネがルソーに小声で耳打ちする。
ハイネ「ど、どうするのよ?」
ルソー「……ちょっと考えさせろ」
憲兵殺しは極刑。もちろんスラムの人間にそれが可能なら、の話だが。
窃盗以上の罪に、一同はさらに縮こまる。
ルソー「……それで? 俺たちがやったって証拠は?」
ブラス「そこのデカい小僧だ。最近派手に遊んでるらしいな? スラムじゃ紙幣まで持ってるガキは目立つ」
ルソー、ハイネがロイの足を思い切り踏みつける。
ロイ「痛ぇ! いててててて……」
なおも踏み続けるハイネ。
ルソー「なるほど……。俺たちをどうするつもりですか? ケジメを付けさせに連れて来たんですか?」
相手に迷惑を掛けていることが確定したので、ルソーは態度を改める。
交錯する視線。
たっぷり一分ほどの沈黙。
ブラス「スカウトだ。度胸と計画性が気に入った」
驚く一同。
ブラス「同じスラムの犬でも、首輪付きの方がいいぞ。痩せた汚い犬になるか、肉付きの良い飼い犬になるか。どっちが良いかは明らかだろう」
ルソー「(犬には変わりないだろうが)」
ルソー一同は目配せした。
断るべきか、受けるべきか。
ルソー「俺たちは負債になりますよ?」
構成員1「おい、お前たちに拒否権は無い」
ブラスは部下を手で制す。
ブラス「力が欲しいんだろ? 権力も力だ。それにいずれは――」
コンコン、と扉がノックされる。
ブラス「なんの用だ?」
機嫌の悪い声。本性が出た。
構成員3「緊急のご報告事項です」
ブラス「はぁ……入れ」
構成員が入ってきて、ブラスに耳打ちする。
眉がピクリと跳ねた。
ブラス「下がれ」
モネが内容を勘付いた。
ルソーの方をチラリと見る。
まだ事件から四時間も経っていない。
ルソー「……何か問題でも?」
ブラス「まさか、お前らが憲兵を殺したんじゃないだろうな?」
ルソー「そうだと言ったら?」
仲間の動揺に気付かれる前に、ルソーは一歩前に出てわざと挑発する。
ルソー「憲兵が怖いので、やっぱりスカウトの話は無しにする、ですか?」
構成員1「おい、お前」
ルソー「えーと、確か『お前たちに拒否権は無い』でしたっけ?」
似ていない声真似をする。
構成員1「このクソガキ――」
ブラス「やめろ」
イラついた声。
ブラスの神経質そうな顔。
ルソー「(思ったより小物だな)」
ルソーはボスの座る机に近づく。
ルソー「スカウトの件、条件があります」
ブラス「……言ってみろ」
ルソー「俺は力が欲しいです」
ブラス「ピンクパンサーの名前を出せば――」
ルソー「あ、そんな地下スラムでしか通用しないチャチな権力はどうでもいいです」
構成員1・2「あぁ⁉︎」
二人はルソーの胸ぐらを掴んで凄む。だが憲兵の威圧に比べれば弱い。
ルソー「俺は〈才能〉がありません。めちゃくちゃ弱いです。雑魚な〈才能〉のガキにボコボコにされるくらい。でも、地上には〈才能〉を譲渡するための特別な宝石があるって聞きました。それを探して俺にください」
武術の襟抜きを応用して構成員の手をほどく。
そのままブラスの机に手をついて乗り出す。
ルソー「それが、俺の条件です」
ブラス「…………」
心配そうに見守る一同。
ブラス「ピンクパンサーの親組織に『剣王』の神の宝玉(ゴッドジェム)が保管されている。でもそれは後継者に継がせる物だ」
ルソー「(『剣王』か……)」
ブラス「千億だ。一千億アクシオム稼いでみせろ。働き次第で後継者に推薦して売ってやる」
ルソーはフッと笑った。
ルソー「成り上がりますよ、俺は。見下ろされる底辺じゃなく、みんなが仰ぎ見る
ブラス「ふっ……それで? 憲兵を殺したのは、お前達か?」
ルソー「さぁ、どうでしょうね?」
ブラス「……食えない小僧だ」
プロローグ完。本編へ続く――。
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