0-2:読まなくてもOKです【脚本形式】
◯地上区画・スラムへの道
圧倒的な力を誇るスラムの少年A。
肉弾戦では負け無しだったロイでも苦戦し、血を流している。
ルソー「(クソっ、何か使えるものはないか……)」
周りを見渡し、二階ベランダで目が止まる。『頑固汚れに神の雫・エーテルブリーチ(AetherBleach)』の文字。
ルソー「(よし、漂白剤か! ならアレと組みわせれば……)おい、ハイネ!」
と、ハイネを呼びつけ指示を出す。
× × ×
漂白剤を容器ごと持って来たハイネ。
ルソー「お前、尿意はあるか?」
ハイネ「んなっ⁉︎」
目を見開くハイネ。
ハイネ「にょ、にょにょ尿意って、おしっこのこと⁉︎」
ルソー「ああ」
ハイネは頬を赤らめ、急に塩らしくモジモジし始める。
ハイネ「る、ルソーもそんな趣味があったなんて、早く言ってよね!」
ルソー「は?」
ハイネ「ロイがやられてる最中にシちゃう、この背徳感……。うぅ〜、ゾクゾクするっ!」
ルソー「おま、何言って……」
ハイネの完全にトんだ目を見て、ため息。
ルソー「はぁ……わかったから、急いでこの容器におしっこしろ!」
アンモニアと塩素を混ぜて反応させると塩化アンモニウムが発生する。つまり、有毒ガスの即席スモークグレネードが完成する。
ハイネ「はぁはぁ……もっと命令して♡」
体をくねくねさせる仕草。
ルソー「おい、ふざけてる場合じゃない。真面目に尿を出せ! って、おい、ここで脱ぐのか⁉︎」
白い布切れがするりと落ちてきた。
そして、スカートをぴらりとめくり尻を突き出す。
ハイネ「お尻、叩いて……」
ルソー「(コイツ……)」
ロイを見ると、既にボロボロだ。早くしなければ、いくら頑丈な『拳闘士』持ちでもやられてしまう。
ルソーは手にハァと苛立ちの息を吹きかけた。そして、
ルソー「いくぞ」
ハイネ「ひゃん!」
パァン、と良い音が鳴る。
ハイネ「もっと――ッ!」
パァン。
ハイネ「あぁんっ……もっと、もっとぉ――ッ!
パァン、パァンと続き、そして、ちょろチョロ……シャーッという放出音。
ガクガク震わせながら恍惚とした嬌声を出すハイネ。
出し切ったタイミングを見計らい、ルソーは蓋を閉めて思い切りソレをシェイクする。
ルソー「まぁ、よくやった」
ハイネは満足げに親指を立てる。
親指を立て返すルソー。
一仕事終えた感を出しているが、まだ始まってもいない。
ルソー「ロイ、避けろ!」
ぶくぶくと泡を立てている液体を、容器ごとスラムの少年Aに投げつける。
見事に蹴りで容器を真っ二つに破壊した彼は、全身に即席グレネードを浴びた。
スラムの少年A「うっ、なん――ッ⁉︎」
苦しげな呼吸。地面に膝をつく。
黄色い煙がモクモクと立ち込める。
有毒な気体が肺と喉を焼く。
数秒後には白目をむいていた。
ルソー「ふぅっ……へばるのは早いぞ、ロイ」
× × ×
◯地上区画・とあるマンションの屋上
アンクはスラムの少年Bに羽交締めにされ、喉元にナイフを突きつけられていた。
スラムの少年B「ほら、さっさと金をよこしな。そしたら助けてやるって」
モネ「渡した瞬間に、突き落とすつもりでしょう?」
スラムの少年B「俺だってこんなことはしたくないんだ。本当だぜ? 信じてくれよ」
モネ「……その割には楽しそうですね」
狂人の笑み。
スラムの少年B「ハハッ、秒でバレたな!」
モネは打開策を練る。スラムの少年Bは目を細めた。
スラムの少年B「……お前ら、本当に神力(オーラ)がないんだな。〈才能〉もないのに、スラムで生きていくには大変だろう?」
アンク「姉ちゃん……兄ちゃんを」
スラムの少年B「おいおい、傷付くなぁ。あんな奴のことなんかほっとけよ。あ、そうだ、俺がお前らの兄貴になってやるよ!」
モネ「それだけは嫌ですね」
スラムの少年B「なんでだ? ありきたりけどよ、俺は『戦士』の〈才能〉があるんだぜ? 無能の兄貴より、ぜってぇ――」
モネ「誰か! 助けてください! スラムの暴漢に襲われてます!」
静まり返る屋上。
モネは構わず続ける。
モネ「誰か! 憲兵を呼んでください!」
スラムの少年B「ふっ、ハッハァー! こんな屋上に助けが来るわけねぇだろ」
笑うたびに、ナイフがアンクの喉元に食い込む。
滲み出る血。
スラムの少年B「それにここらの憲兵なんて、全部腐ってるぜ?」
アンク「姉ちゃん……」
すすり泣くアンク。
スラムの少年B「もう遊びは終わりだ。早く金をよこせ。本当に殺すぞ?」
モネ「誰か! 弟が、弟が殺されてしまいます!」
憲兵「ほう、なら現行犯で斬首刑だ」
スラムの少年B「――――ッ⁉︎」
赤い制服を着た憲兵が突然現れる。
放たれるオーラの威圧。強さの次元が違うことを物語る。
憲兵はエリートだ。難関の士官学校をトップクラスの成績で卒業する実力がなければなれない職業である。
当然強い〈才能〉が必要で、加護レベルも軒並み高い。
まさに、神に愛された寵児である。
そんな憲兵に、一瞬でスラムの少年Bは制圧された。
× × ×
◯地上区画一階・マンションの路地裏
憲兵「ふむ、では、君たちが屋上に逃げた後、あの状況になったんだね?」
スラスラとメモを取る憲兵。
モネとアンクは平民を装い、事情聴取を受けていた。
モネ「は、はい」
いつもは憲兵の目を避けているため、ややぎこちなく答える。
曇り空。雨が降りそうな湿った匂いがする。
憲兵「関連性はあるかもね。今日は男爵のご子息もスラムの子供にスられたらしいから。さっきの少年は何か言ってなかったかい?」
モネ「いえ、特には」
憲兵「まぁ、あの太っちょ坊ちゃんには我々も手を焼いているからねぇ」
思い出したように、アンクがモネに耳打ちする。
アンク「太っちょのお坊ちゃんって、あの金髪の不良ごっこしてた人?」
ピクッ、と一瞬憲兵の眉が釣り上がった。ジッと二人を観察する。
モネ「もうアンク、変なこと言わないの」
憲兵の反応に気づくモネ。小声ですぐに黙らせるが、
憲兵「へぇ、ボク、もしかして会ったことあるのかな?」
モネはアンクの脇腹をつねる。
アンク「う、ううん! 会ったっていうか、さっき見ただけだよ……です!」
モネ「アンク」
憲兵「へぇー、いつ?」
モネ「ついさっきです」
スン、と平静を装う。
憲兵「おっと」
モネの瞳を覗き込む。そして、胸、腰、脚へと視線を移す。
憲兵「よく見たら君たち、オーラを隠しているんじゃなくて、一切無いんだね。学園には通っているの? 親御さんは?」
モネ「あの、私たち、そろそろ失礼します。雨も降りそうですし、母も心配しますので」
アンクの腕を引っ張り立ち去ろうとするが、その腕を憲兵が掴む。
憲兵「最近導入された紙幣には、偽造防止のために識別番号が振られていてねぇ。キミたち、お金見せてよ」
力強く、振り解けない手。
豹変する顔。悪人が詰問しているよう。
ポツリポツリと雨が降り始めた。
× × ×
◯地上区画・スラムへの道
縄で厳重に捕縛されたスラムの少年A、C、Dをルソー達が囲んで見下ろす。起きているのはAだけだ。
ルソー「この服高いんだぞ」
服には靴の跡がクッキリと残っている。
ルソーはタバコに火をつけ、ゆっくりとふかす。
スラムの少年A「……あぁ?」
ルソー「弁償しろ」
ロイ「俺の分もだぞ!」
小綺麗だった服も破け、血や土でボロボロだ。
スラムの少年A「けっ、そんな金ねぇなぁ」
横柄な態度。
ロイが舌打ちして、顔を殴る。何度も、殴る。
スラムの少年A「がはっ……卑怯だぞ!」
ルソー「ロイ、目は潰すなよ?」
ルソーは少年たちから奪ったナイフを握りしめた。
ルソー「弁償が無理なら、カラダで支払ってもらう。お前もこの意味、分かるよな?」
スラムの少年A「……さぁなぁ?」
ルソー「スカイポリスの地下街(アングラ)で金を稼ぐには二つの方法がある。一つは『魔薬』を売ること。もう一つは――」
ナイフを目玉に近づけ、耳打ちする。
ルソー「男なら、カラダ(内臓)を売ればいい」
ビクリと跳ねる身体。
眼球をくり抜こうとするナイフの切先。瞼を掠める。
ルソー「全員で、シメて三万アクシオムってところか。弁償代にはなるだろ」
震える少年が虚勢をはって凄む。
スラムの少年A「クソッタレ……! 能無しの負け犬め!」
ルソー「ああ、そうだ。俺は負け犬だ。でも、お前もそうだろ?」
ルソーの飢えた野犬のような眼。ドスの効いた低い声。
スラムの少年A「…………」
スラムの少年は逡巡するが、
ルソー「何も法外な金額を要求してるわけじゃない。俺たちも『スラムのガキ』だからな」
ルソーはタバコを一本差し出す。それを咥える少年。
マッチに火をつけた。
スラムの少年A「……分かった。明日金を持って来させる。それでいいか?」
ルソー「ロイ」
ルソーはロイに縄を解くよう合図する。
重い足取りで帰っていく少年たち。
ハイネ「さすがね、ルソー!」
背中をバシンと叩く。
ルソー「……モネとアンクを迎えに行くぞ」
タバコをポイ捨てし、靴ですりつぶす。
× × ×
◯地上区画一階・マンションの路地裏
憲兵「ほら、僕の言う事を聞けば色々と黙っててあげるから」
モネの手首を掴み、首を絞める憲兵。そのまま壁に押し付ける。
モネ「やっ……痛い」
憲兵「暴れないでくれよ? キミみたいに可愛い女の子の骨なんて折りたくないんだ。綺麗なまま味わいたいからね」
モネ「か、かはっ……」
モネがもがいても、ガッチリと掴む憲兵の手。
モネ「(息が……)」
アンク「姉ちゃんを離せ!」
ポカポカと憲兵を背後から殴る小さな手。
憲兵「邪魔」
一撃で蹴り飛ばされる。
資材の山にぶつかり、気を失うアンク。
憲兵「やっと大人しくなった。ふひひ、どれ、味見でも」
モネは憲兵を殴る。金的に膝蹴りを入れる。しかし神力の鎧で動じない。
憲兵はモネの唇に口づけ、舌を入れる。服の上から胸をまさぐる。
モネ「――――んんんん!」
ガリ、と憲兵の舌を思い切り噛む。
滴る、鉄の味。
憲兵「っ……この雌犬がぁ!」
バチン、と平手打ち。
モネの意識が一瞬飛んだ。
うつろな眼。
モネ「(母様……)」
続く――。
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