0-1:読まなくてもOKです【脚本形式】

【アンダースラムドッグ――AIと負け組人生を戦略ゲーム化して成り上がろう】


 登場人物



 ◯ルソー(主人公)

 ◯モネ(長女)

 ◯アンク(末弟)

 ◯ハイネ(幼馴染)

 ◯ロイ(幼馴染)

 ◯小太りのお坊ちゃん

 ◯取り巻きたち

 ◯ブラス・ハート(ギャングのボス)

 ◯スラムの少年A・B・C

 ◯憲兵

 ◯男1・2・3

 ◯構成員1・2




























 ◯プロローグ


 かつて知恵の女神アテナに愛された名君がいた。

 数あるダンジョン都市国家を属国に従える大帝国の皇帝であった。

 彼は家族や配下に見守られてその寿命を全うした。


「この国があるのは、あの方のおかげだ」


 そんな彼は最後にひっそり身内にのみ告げたという。

 帝国を影で牛耳った、闇の皇帝の名を――。


 第一章・プロローグ


 ◯スカイポリス・地上区域(昼)

 雑踏の中に、身なりが少し汚い少年少女が5人。


 ハイネ「ねぇ、ルソーってば?」

 ルソー「……あぁ、準備しろ」


 ルソーの値踏みするような目線を辿る。通りの真ん中を風を切るように歩く、身なりのいい小太りの少年と、その取り巻きたち。

 後ろのポケットにはぶ厚い長財布。


 ハイネ「ふふっ、ターゲットはアイツね?」

 パチンと指を鳴らし、そのまま――


 ルソー「ばか、指さすな」

 ロイ「ケッ、金持ちのお坊っちゃんが不良ごっこか」


 と唾を吐く。


 モネ「兄者、あの人のギフト強そうですよ……」

 ルソー「大丈夫だ。作戦通り、いつも通りに、な?」


 とモネの髪をくしゃくしゃに撫でる。


 モネ「むぅぅぅ……」

 ルソー「アンク、いけるか?」

 アンク「うん!」

 ロイ「へへっ、今日はカビてないパンが食えそうだな!」


 ロイが“ボール”を手に、アンクと歩き出した。作戦開始だ。


     ×    ×    ×   


 ◯地上・広い歩道(昼)

 数分後、小太りの少年たちが歩道の曲がり角に差し掛かった瞬間、


 ロイ「おっと、ごめんごめん」


 ボール遊びをしていたら、思わぬ方に飛んでいってしまった……という風を装い、小太りの少年の脚にボールを思い切り投げつける。

 そのボールを追いかけようと、撹乱するアンク。


 小太りのお坊ちゃん「いってぇな!」


 相手が同年代と確認するや否や、反射で怒鳴る。


 ロイ「わ、わりぃ…」

 アンク「ごめんなさい!」


 間髪入れず、ぶつかりに行くハイネとモネ。


 モネ「きゃっ」

 ハイネ「やんっ」

 小太りのお坊ちゃん「ってめ――っ!」

 取り巻きA「オメェら!」

 取り巻きB「喧嘩売ってんのか?」


 ぶつかった衝撃で倒れるモネとハイネ。ひらりと二人のスカートが捲れ上がる。

 ふわりと香る、扇状的な香水。


 男一同「――――ッ⁉︎」


 ターゲットカモたちの注意が少女の布切れと太ももに集まる。


 ハイネ「やっ♡ イッターい」


 と、満更でもなさそうな顔。


 モネ「きゃっ」


 と、半分本当の羞恥を装う。

 ロイ&アンクは立ち去る。

 入れ替わり、ルソーがスルりスルりと財布を意識の外でスっていく。

 ハイネとモネの二人はすぐに立ち上がり駆けていく。

 わずか数秒の出来事だった。


 取り巻きA「へへっ、今日はツイてますね。いいもん見た」

 小太りのお坊ちゃん「ふ、ふんっ、あの程度の女の裸なんて、俺は毎晩見てるんだからな」


 と言いつつ、ポケットに手を突っ込みながら、モジモジする。


     ×    ×    × 

  

 モネ「兄者、私もうお嫁に行けません……」


「慰めて」の文字が浮かぶ瞳。すでに路地裏に隠れた四人は合流する。


 ハイネ「モネ、男は大抵あんな感じだよ」

 モネ「私に〈才能ギフト〉があったら……」

 ルソー「俺に〈才能ギフト〉があったら、こんなまどろっこしいことしてないさ」


 空っぽの財布を地面に投げ捨てる。中身の金貨や紙幣を数え、取り分を分配するルソー。


 ロイ「おっ、結構入ってたな! 今日はママのパスタが食えるんじゃねぇか?」

 ルソー「ダメだぞ、ロイ」


 ヒョイ、と手渡しする寸前にお預けする。


 ルソー「最近、他のスラムの奴らに目をつけられてる。あまり見せびらかすなよ?」


 金遣いが荒く、賭け事までしているロイはここのところスラムでも目立っていた。


 ロイ「わ、分かってるって。あれだろ? えーと、〈才能〉がナンたらカンたら――」

 ハイネ「『〈才能〉ある鷹は爪隠す』でしょ」

 ロイ「へいへい、何回も聞いたって。さっさと分け前を――」


 ヘラヘラしたロイを、ルソーがギロリと睨む。一瞬でピリつく路地裏。


 ルソー「これはお前だけの問題じゃない」

 ロイ「……」

 アンク「兄ちゃん、腹へったよぉ」

 モネ「我慢しなさい」


 空気を読まずルソーの袖を引っ張るアンク。モネ諌める。


 ルソー「お前だって道端に転がってる死体を何度も見てきただろ?

 お前は『拳闘士』の〈才能ギフト〉があるかもしれないけどな、俺たちは〈才能ギフト〉がないんだ。飛び火するような真似はするなよ?」

 ロイ「……」

 アンク「ねぇ、兄ちゃん……ハラへった……」

 モネ「アンク!」

 ルソー「おい、返事は?」

 ロイ「わ、わかってるよ。そんなおっかない顔すんなよな!」

 ハイネ「ほ、ほら、ルソーは〈才能ギフト〉がなくても、頭がいいし器用だから問題ないじゃん」


 険悪ムードを取り繕うように割って入る。が、それを無視して、


 ルソー「ちゃんと守れないようなら、俺たちは他の奴らと組む。行くぞ、モネ、アンク」

 モネ「う、うん」

 アンク「ご飯?」

 ロイ「ご、ごめんって」

 ハイネ「えー、ちょっと待ってよ〜」


 一人歩いていくルソーを、みんなが追いかけて行った。


 ◯地上・地下スラム街への道


 ため息を吐くルソー。


 ルソー「ほら見ろ」


 前に立ちはだかるのは、少し年上のスラムの子供4人。品定めするような視線を向けてくる。


 スラムの子供A「そんな綺麗な格好して、地上で平民ごっこか?」

 ハイネ「ね、あれ、あたしの服……なんだけど⁉︎」


 ルソーの袖を引っ張るハイネ。

 スラムの少年たちはハイネとモネの“普段着”を胸いっぱいに嗅ぐ。


 モネ「あの服、もう捨てます」


 自分の腕で体を抱き寄せるモネ。

 リーダー格の男子がゆっくり歩いてくる。

 他の奴らもハイネとモネのミニスカートに釘付け。

 隠していた着替えの場所がバレているということは……


 ルソー「お前、つけられてたな」


 尻目で睨む。


 ロイ「……ごめん、ルソー」


 ごくりと唾を飲み込む。動揺で揺れる一同の瞳。


 モネ「兄者……」

 アンク「兄ちゃん」


 ルソーがぽん、とモネとアンクの頭に手を乗せる。そして目とジェスチャーで「始まったら壁を登って逃げろ」と合図する。走って逃げても、二人の体力じゃ勝ち目がないからだ。


 ルソー「いけるな?」


 コクコクと首を縦に振る二人。


 スラムの少年B「ほら、お前ら、ちょっと跳んでみろよ。金があるかチェックしてやる」

 スラムの少年C「キシシっ、それじゃスカート捲れるんじゃね?」

 ルソー「あのさぁ、俺たちを誰かと勘違いしてないか? 金なんて持ってないぜ?」

 スラムの少年A「じゃあ、その服を脱いで寄越せ」


 ルソーはロイの背中を強めに叩いた。そして耳打ちする。


 ルソー「ロイ、お前はあのデカい奴だ。俺とハイネは他三人をやる」

 ハイネ「ええっ⁉︎」

 ロイ「は、はぁ⁉︎ 無理だって! あいつ、マフィアの――」

 ルソー「じゃあお前が残り三人をやるか?」


 逡巡するロイ。


 スラムの少年D「なに食っちゃべってんだよ?」

 ルソー「俺はどっちでもいいんだぜ?」

 ロイ「あー、くそっ……」

 ルソー「おい、アイツの神力(オーラ)は見えるか?」


 リーダー格を顎で指し示す。

 ハイネ「うーん、なんか強そうな感じ?」

 ルソー「お前はどう思う?」

 ロイ「……多分〈加護〉持ちだろうがヨォ……。俺でも勝てるかわかんねぇぞ」


 不適に笑い、近づいてくる少年たち。


 ハイネ「って、ちょっと待って、あたし戦えないんだけど!」

 ルソー「じゃあ俺たちがボコされた後、犯されるのを一人待ってるか?」

 ハイネ「そ、それもヤダ!」

 ルソー「じゃあ、殺す気でやるぞ」


 両グループはお互い両腕を伸ばせば届く距離。

 ルソーは腰に隠した鉄パイプを握りしめる。


 スラムの少年C「お? こいつアレじゃね? 噂の無宗教の能無しじゃねぇの?」

 スラムの少年D「マジで俺たちとやる気――」


 ルソーが鉄パイプをフルスイングした。

 顎の骨が砕ける音。


 スラムの少年D「――かよ」


 少年Cは白目を剥き、ダウンする。

 そのままの勢いで少年Dへ襲いかかる。

 唾液と血が空を舞う。

 三度の打撃でノックアウト。


 スラムの少年A「ちっ」


 少年Aは素早い反応を見せ、ルソーへ蹴りを入れる。

 ルソーは盛大に吹き飛び壁へ叩きつけられる。血の塊を吐きながら叫ぶ。


 ルソー「ロイ! 働け!」

 ロイ「――――っ! うぉぉぉ!」

 スラムの少年A「クソが!」


 殴る蹴るの乱闘騒ぎが始まった。


 ルソー「ハイネ! 逃すな!」

 ハイネ「ええっ⁉︎」


 少年Bがモネとアンクを追って壁を登り始める。

 ルソーは立ち上がろうとするが、ふらついて四つん這いに倒れた。

 ハイネは動こうとしない。


 ルソー「おい、ハイネ、ふざけるなよ? 早く追いかけろ!」

 と、睨みつける。


 ハイネ「だって、登ったらおパンツ見えちゃうじゃん!」

 ルソー「あぁ? マジでふざけんなよ⁉︎」


 ハイネはチラっ、とスカートをたくし上げ、体をくねらせる。


 ルソー「(こいつ、マジで……)」

 ロイ「グアアッ!」

 ハイネ「きゃっ!」


 一回り大きい体躯のロイが吹き飛ばされ、ハイネと衝突。


 ロイ「……ってぇ」

 ハイネ「……ちょっと、どこ触ってんのよ!」


 バチン、と軽快なビンタの音。

 砂埃の中に、回し蹴りのポーズのまま静止した影が浮かんでいた。


     ×    ×    ×   


 ◯地表区域・マンションの屋上

 モネとアンクはマンションの屋上から、向かいの建物の屋上まで飛び移ろうとしている。


 モネ「(私一人なら飛び移れるけど、アンクの脚力じゃ……)」


 ビュウ、と髪がなびく。下を見ると、即死する高さ。


 モネ「(怖いけど……もし兄者だったら)アンク、お姉ちゃんについてくるのですよ!」

 アンク「ええっ」

 モネ「コツは、下を見ないことです。ほら」


 震えながらも、軽快な身のこなしで排水菅からベランダの柵へ移動し、そして少し低い向かいの屋根へとジャンプする。


 モネ「早く来なさい」

 アンク「でも、姉ちゃん……兄ちゃんが居ないと、オレこわいよ」

 モネ「アンク!」


 珍しく鋭い口調。

 ビクッとするアンク。


 モネ「いいですか、兄者がいなくても、これくらいできなければいけません。父さまみたいに、星等級探検者になるのでしょう――ッ!」


 息を呑むアンク。そこに、


 スラムの少年B「ハッハー! やっと追いついた! お前ら、猿かよ!」


 サーッと青ざめるモネの顔。

 反対に、覚悟を決めたアンクの瞳。


 アンク「姉ちゃん、オレ、飛ぶよ」

 モネ「アンク! まっ――」


 七歳児の脚力では到底届くはずのない距離を、跳躍する。

 引き攣るアンクの顔。

 どしん、と屋根に着地。よろけて落ちそうになったところを、モネが慌てて掴む。


 スラムの少年B「ヒュー、やるね、坊主。でも」


 口笛を吹いて、ひとっ飛びで追いつく。


 スラムの少年B「これで坊主の勇気は無駄になったな」


 不敵な笑み。

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