第17話 唸れ俺の頭脳!(意訳:早く思い出せ俺)

『あ』

「え…」


 再び対面した二人は動きを止めた。

 

 めっちゃ驚いた顔された。まるで幽霊にでも出くわしたかのような表情だ。いや俺幽霊だったわ。


『授業終わった?』


 何もアクションを起こさないと状況は変わらないので自分から話を切り出した。


「あ…あぁ?」


 肯定ともとれるが何をそんなに戸惑った顔をしているのかが分からない。食堂で会ったときは俺の方が驚いていたぐらいなのに。


『じゃあ今帰り?』

「そう、だな…」


 煮え切らない答えに首を傾げる。そこであっと思い出す。そういえば人が通る場所で話すのは控えようとしてたんだった。やべーじゃん。今の状況見られたら。主にトウリクンが。


 すまん気づかないでいて。


『とりあえず…君の家まで憑いてっていい?』

「ああ…」


 心ここにあらずみたいにボーッとしているが、許可は下りたので良しとする。しかしどこを見ているのだろうと思い彼の視線をたどると、その先にはピィ(仮名)がいた。


 なるほど…こいつに気を取られていたんだな。まぁさっきまで一緒に居なかったし当然か。


 というかピィ(仮名)がピカッと光ったときにショッキング映像が脳裏に過ぎてったのだが、どういう意味だろうな? なんかその中にピィによく似た鳥も出てきたし不思議だわ~。


 多分俺が死んだときの記憶かな…? 俺思い出したかったのそれじゃなかったんだけどな…。やっぱ思い通りに事を進めるのは難しいもんだな。


 でも…人の顔は映ってなかった。霧がかかったように顔だけが見なくなっていた。


 ……いや、怖っ。

 こんな物騒な映像見せるとはいい度胸をしているなピィ(仮名)め。まぁ記憶の手がかりというか一片は知れたから許してやるとしよう。


『さぁ行こう。さっさと行こう』

『ピィ~!』


 トウリクンを急かして階段の方を指差す。

 しかしトウリクンに触れることなく俺が先導するように階段へ足を向けた。


 どうやって下駄箱に行くか分からんけど取りあえず一階にでも降りればいいだろ…と思っての行動だ。別に考えなしに進んでいる訳ではない。


 そしてその後ろをついてくるトウリ。


 無言だった。

 だがそこに気まずさは無い。


 んー?なんだか居心地が良いような普通なような…?

 ピィが居るから?それともトウリクンが居るから?

 まぁ今はそんなことどうでもいいか。

 それよりも目的地につくことが先決だ。


 階段をふよふよと下り、トウリクンのペースに合わせる。

 この浮いてる状態でどの位の速度出せるんだろう?とこっそり思った。


 数分後、一階に到着。

 後ろにトウリクンが居るか振り返るとバチリ‥と目があった。

 辺りに人は居ない。


 何か口を開こうとしたトウリクンに俺はジェスチャーで喋らないよう必死に伝える。バカなことに後々考えると口頭で伝えればよかったことに気づいた。既に手遅れというか遅かったというか。


 しーっしーっ!と伝えるアオを見て流石に何を言いたいのかトウリに伝わり、トウリは開こうとした口を閉じた。


 それにホッとしてトウリの後ろにつく。

 だって道が分からないから。


『ピィー…』


 そんな呆れたような声出さないでくれよピィよ。しょうがないだろ? 覚えてないんだからさ。


 歩くトウリクンの後ろを眺める。目線は俺と同じぐらいだ。…まぁ俺浮いてるんですけどね…。トウリクン身長たっけぇな。


 外は夕日が沈む頃で、人はあまり見当たらない。

 そういえばさっき居た教室は人の気配しなかったな。空き教室多すぎじゃね?

 全く勿体ないな…。


 職員室の前を通りかかりなんとなく中を覗く。

 教師と思われる人たちが揃って席に着き、パソコンに向かってなにやら打ち込んでいたり、書類をめくっていたりと忙しそうだ。


 その中でも最年長であろう白髪のおじいさんに目が止まった。


 ジッと見たものの、ピィが『ピッ!』と鳴くことでトウリクンがだいぶ先の方に進んでいるのが見えた。


 やべっ。置いていかれる。

 なんか思い出しそうな気がしたけど無理だったわ。

 

 見失わないようにダッシュ(なお数センチ浮いている)でトウリクンの下へと向かった。


 にしても何だろう。この気持ち。落ち着く感じがする。

 でもそれは…おじいさんから滲み出る負の感情…?

 なのかもしれない。


 だってあんなにも悲しそうな雰囲気を纏ったおじいさんは、食堂でのトウリクンに少し似ていたから。

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