第6話 俺のハンカチーフ使えねー

 どうでもいいことを考えていると、獲物を見つけた犬のように走り出したヒカルクンはどこかに向けて走り出した。


 おーいあんたー!食堂で走るとはどういう了見だい!?(食堂のおばちゃん風)俺幽霊だけど走ってないよ!埃たててないよ!(たてようが無い)誰かにぶつかったらどうすんの~?もう!困った子だね。


 と俺の中での怒りが食堂のおばちゃん風に変換されていると獲物の所へ到着したのか足音は途絶えた。そして未だにそれ以外の音は厨房から聞こえてくる音ぐらいでしん、、、としたままだ。


 皆さんどうしたんですか?そんな怖い顔してると好感度下がりますよ?(誰の?)


 いや正直に言って怖い。だってこの食堂に居るほぼ全員が怖い顔でしかも無言で一カ所見つめてるんだぜ?どんなホラー映像だよ。いやホラーはお前だろって?やかましい。


 彼ら(食堂に居る生徒たち)は熱心に一カ所に目を向けている。

 なんかギリギリと口から音鳴ってる人居るー。


 こわー。体にわるー。やめろー?


 そんな彼らに気づいているのかそれともあえて無視しておるのかヒカルクンはあの窓で大声を出していた時のように離れたここまで聞こえる声で話していた。真面目にアイツの神経どうなってんだろうか。勿論頭の、ね。逆に反射神経は良さそうだな。


 それにしても声が聞こえているというに話している内容がさっぱり理解出来ないのだが、、、。


 ふよふよと漂いながら二階席へと移動する。幽霊だけど人ごみに酔いそうなので移動した。にしても学校の食堂に二階席って普通なのか?多分自分は此処の生徒なのだろうが今更だが信じがたい。


 二階席に移動すると人は圧倒的に少なく人が転々と座っている。共通しているのは皆制服を着ているというところか。いや皆イケメンなんですけど?この学校の(顔の)偏差値どうなってんの?意味分からん。しかも美味そうな飯食いやがって!羨ましい!(関係無い)


 二階席へ来てもヒカルクンの話し声は聞こえてくる。俺の聴覚が進化したからか?

 今のところ要らない能力だな、、、。いやあるに越したことは無いか。


 一階部分を見渡せる位置のテーブルに着き手すりに肘をついて下を覗く。え、まーた覗きしてんのかって?違うもんね~これは観察だよ。


 なんか向かいの席に人が座ってたけど見えないからいいよね?


 ってあれ?ん?なんか視線感じるぞ、、、?


 視線をそちらへ向けるとそこにはこちらを見たまま目を見開いている男が、、、!!制服を着た男子生徒はこちらを見て目を見開いたまま動かない。


 ………。一拍。

 おいおいおい、コイツ見えてるのか!?

 

 いや待てぬか喜びはいかん。コイツも幽霊なのかもしれないし。ふぅー俺はクールボーイだ(自称)。落ち着け落ち着け。


 よし、と覚悟を決め目の前の奴の顔の前で手を振った。


『おーい見え、、、て、るか?』


 最後のほうの言葉が自信なさげに下がっていった。すると目の前の男は突如として一筋の涙を流した。


『え、』


 予想を上回る反応であわあわと慌てる。どどどうしよう!?いやこれはわざとらしかったか。いや実際どうしようという気持ちはあるけどここまで慌てる程のモノでは無い。ポケットを確認するとハンカチがあったが果たしてこれは生きている人間が使えるのか?それが問題である。


 いや絶対使えないじゃん。無理無理。


『お、おい大丈夫か?えっと、、、人間?』


 ………。

 俺のコミュニケーション能力は一体どうなっているのだろうか?なんか緊張したせいでどっかのアニメに出てきそうな人外の話し方をしてしまった。


 目の前の男は懐から青色のハンカチを取り出し涙を拭った。そしてジッと此方を見つめて小声で言った。


「っ、、、取り敢えずここで話すのは不味い。オレが完全に一人になったときにまた声を掛けてくれ」


 そこではっとする。そういえば他に人が居たんだった。二階席は人が少ないとは言えここで話せばコイツは何もない空間に話しかける奴になってしまう。そうすれば変人という名は暫く続くであろう。それは流石に申し訳ない為その案に頷いた。そして幸いにも先程の事に気づいた奴は居なさそうだった。

 

 ということで、引き続き一階を眺めるという行為を続けるのだった。ここでコイツに話しかけてしまえば気が散ってしまうだろうしね。

 ん?なら離れろって?せっかく“見える人”に会えたんだから一緒に居たいじゃん。それが答え。


 それにしても、と一階を眺めながら思う。コイツは俺を見て涙を流したようだったがどうにも怖くて泣いたという訳では無さそうなんだよな。もしかして俺の知り合いだったりするのだろうか?


 まさか目が覚めて二日目にして幽霊見えるヤツと会えるとは、、、俺もツイてるな!死んだときに悪い運を使い果たしたのだろうか?そうだったらいいな。そしてこれが幽霊ジョークという奴か。

 

 そして俺は最後まで自分が涙を流していた事に気づくことはなかった。

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