あさまだき
朝――
祥顕はいつもの曲がり角で待っていたがいつまで
ここしばらく毎日一緒に登校していたからすれ違いになったとは考えづらい。
ホントは俺とアイスなんか食いたくなかったとか……?
仕方なく一緒に帰ってるだけなのに連絡先聞いたりアイスとかに誘ってくる勘違い野郎と思われて先に行ったとか……。
スマホを取り出してメッセージを送ってみたが既読すら付かない。
試しに電話を掛けてみたがいつまでも呼び出し中のままだ。
いつまでも来ないことに不安が
ストーカーだと思われないだろうか……。
家まで押し掛けたりして迷惑行為で通報されたら……。
とはいえ、このままでは遅刻してしまうし、かと言って無事を確認せずに学校に行って万が一のことがあったりしたら――。
祥顕は意を決してチャイムを押したが返事はなかった。
しばらく待ってみたが誰も出てこない。
通報を受けた警察官が来る様子もない。
どうやら留守のようだ。
どうすればいいか考えているうちに今までは弓や太刀が勝手に出てきたのに今日は現れていないと気付いた。
花籠に何かあれば虫の知らせのようなものがあるだろう。
勘違い野郎と思われて先に学校に行っただけなら
いや、花籠は無事な方がいいんだが……。
しかし、いくら非モテとは言え、一緒にいるくらいなら死んだ方がマシだと思われたとしたら立ち直れないかもしれない……。
休み時間――
祥顕は花籠の教室に向かった。
物影から教室の中に視線を走らせる。
陰からこそこそ覗いている事がバレたらそれこそストーカーと思われかねないが……。
それでも安否だけは確かめたかった。
メッセージには既読が付かないし電話にも出ない。
呼び出し音は鳴り続けているから着信拒否をされているのではないはずだ。
それとも着信拒否でも呼び出し音はするものなのか……?
相手に着信しないと言うだけで……。
さすがに誰かに着信拒否をされたことはないから判断が付かない。
そもそも連絡先を知ってる女の子は花籠しかいないというのはおいといて。
マナーモードにしていて気付かないという事も考えられなくはないが……。
その場合でも振動はするはずだ。
一瞬で終わるメッセージの知らせならともかく、呼び出し音は鳴っている間中、振動し続ける。
花籠の機種は違うのか……?
教室の中に花籠の姿は見当たらない。
クラスメイトに訊ねるのも付き
休み時間の度に覗きに行ってみたが花籠の姿は一度も見えなかった。
今までは弓や太刀が勝手に出てきていたのだから出てこないなら無事だろう――手遅れでなければ。
祥顕は急いで不吉な考えを打ち消した。
この前は虫の知らせがあったのだから今度も前兆はあるはずだ。
祥顕は自分にそう言い聞かせながら教室に戻った。
放課後――
祥顕は迷った末にまた電話を掛けてみた。
単に無視しているだけならいいが――いや、良くないのだが――無事は確認しておきたかった。
その上で迷惑だというのならもう関わるのは止めよう。
どちらにしろ祥顕も狙われているのだから迂闊に近付いて巻き込んでしまっては本末転倒なのだ。
ただ、無視していたわけではなく、何らかの事情でスマホが手元になくて気付かなかっただけだったとしたら着信履歴を見てドン引きされるかもしれない。
しかし既にこれだけ掛けてしまった後なのだから今更もう一つ履歴が増えたところで大差ないだろう。
それとも――。
こういう発想がストーカーなのか……?
そんな事を考えていると呼び出し音が止まり、
「はい」
という返事が聞こえた。
「花籠! 無事か!?」
「あの……どちら様でしょう」
大人の女性の声が答える。
「え……あ、花籠……さん、では……」
祥顕はしどろもどろで答えた。
「花籠は昨日から入院していて……」
女性の答えに、
「えっ!?」
祥顕は思わず声を上げた。
「今、病院から戻ってきてスマホが鳴ってるのに気付いて……これからまた行くところです」
女性が答えた。
「あ、お大事に……」
祥顕が
病室まで教えてくれたんなら見舞いに行ってもいいって事か……?
それとも見舞いの花はそこに贈れという意味だろうか。
祥顕が迷っていると目の前に弓が現れた。
咄嗟に掴もうとしたが寸前で消えた。
病院に行けってことか……。
祥顕は病院に向かって走り出した。
病院に着いて案内板を見ると花籠の病室は内科だった。
ケガじゃなくて病気なのか……?
それなら連絡も無しに病室へ押し掛けるのは迷惑ではないだろうか。
いや、ケガでも迷惑だろうが……。
祥顕が考え込んでいると、
「あの……」
と言う女性の声がして我に返った。
案内板の前に突っ立ってたら迷惑だよな……。
祥顕が脇にどこうとすると、
「この前、花籠のお見舞いに来てくれたお友達?」
と話し掛けられた。
振り返ると花籠の母親だった。
「あ、こんにちは」
祥顕は慌てて頭を下げた。
「弓弦祥顕です。同じ高校――」
――なのは着ている標準服で分かるだろう。
しかし他に言いようがない。接点が一つもないのだ。
「――の三年です」
と自己紹介して頭を下げる。
「どうぞ、こちらへ」
花籠の母親はそう言って歩き出した。
面会出来るなら無事って事か……。
祥顕は安心して胸を撫で下ろした――
――が、病室のベッドに横たわっている花籠は意識が無かった。
眠っているのではないと何故か分かった。
よく分からないが何か嫌な感じがするのだ。
「お医者さんも理由は分からないらしいんですが……これが最期になるかもしれないので……」
だから病室を教えてくれたのだ。
最期に一目会えるようにという
祥顕は早太の話を思い出した。
作られた人間だからいつ死んでもおかしくない、と。
母親は祥顕が事情を知らないと思っているから理由を言わないのだろう。
そう言われてみると花籠の周りが薄暗く見える気がする。
闇に
早太が言っていた死期が迫っているという事か……。
母親が椅子に掛けてあった花籠の上着を手に取った時、ポケットから何かが落ちた。
あれは……。
アイスコーンの紙だ。
おそらくあの時の……。
母親はゴミだと思ったのだろう、黙ってそれを拾った。
嫌だ……!
病気や事故なら諦めも付く――――かもしれない。
出来る限りの手を
けれど作られた身体だから十五年で寿命だなんて、そんなの認めたくない。
何もしないまま黙って見送ることなど出来ない。
そう思った時、再度目の前に弓が浮かんだ。
透き通っているから実体ではない。
弓が現れた瞬間、花籠の周りが明るくなった。
気のせいで暗かったのではない。
何かがいたのだ。
身体の寿命じゃない。
花籠を連れていこうとしている何者かのせいだ。
そして、それは弓で
実際、今消えた。
だが、それは一時的なものに違いない。
「失礼します」
祥顕は母親に頭を下げると病室を出た。
走らないように気を付けながら足早に屋上に向かう。
屋上に出ると弓が現れた。
今度は実体だ。
〝
せめてこの手が届く人だけでも助けたい……。
「弓よ、闇を打ち払え!」
祥顕は弓を構えると弦を引いた。
「
そう呟いて弦を放す。
弦の音が辺りに響いた。
病室まで効果が及ぶか分からなかったが届かないならあの場に実体が出てきていたはずだ。
漆黒の闇の中、花籠は何かが聞こえた気がして目覚めた。
目が覚めたと言っても辺りは真っ暗で何も見えない。
〝何故私ではないの……?〟
女性の声が聞こえてきた。
え、香夜ちゃん……?
香夜とは違う声だがそれでも何故だかそれが香夜だと分かった。
〝何故私ではダメなの?〟
〝ずっと
この
香夜ちゃんも私と同じこと思ってる……。
〝私を選んでくれてれば……そうしたら私も
〝どうして……〟
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