第5話 結果はいつもひとつ

 次の日、親はけんかしていた。


 その大きくて嫌な音を聞きたくなくて、僕は自分の部屋にすぐ逃げ込んだ。

 いつも逃げているから、何でそこまでけんかをしているのかよく分かっていない。でもたぶん兄かお金か仕事のことだと思う。それか父親の機嫌が悪くて、それに母親が巻き込まれたのだろう。


 自分の部屋でテレビを点けたけど、嫌な音が全部かき消されることはなかった。


 僕は諦めて、家を飛び出した。



 しばらく外の公園で時間を潰して家に戻ると、リビングから二人はいなくなり、ラップがかけられたチャーハンがテーブルにぽつんと置いてあった。  


 スナックは今日休みだから、親は上の部屋にいるはずだった。仕事がない日、父親は九時前にはもう寝ている。母親はリビングにいることが多いけど、今日はもうけんかでいやになったのか自分の部屋にいるみたいだった。なるべく上に聞こえないようにテレビの音量をできるだけ小さくした。


 チャーハンを食べ終え、皿を洗い、DVDを見る。


 今日も赤い蝶ネクタイの小学生探偵は絶好調だった。


 DVDは切りのいいところまで見たけど、まだ自分の部屋、二階に行きたくなかった。さっきまでけんかしていた二人にできるだけ近づきたくなかった。

 僕はもう眠かったけど、また次のDVDを黒い布でできた袋から取り出して、プレイヤーに入れた。


 気が付けばもう十一時になっていた。もうそろそろ自分の部屋に戻ろうとしていると、父親の階段を下りる音が聞こえてきた。


 僕は息を止めた。


 慌ててテレビを消すと、古い置時計のカチカチという音と、冷蔵庫のビーという小さな音だけが聞こえてきた。


「何にしてたんだ」

「外歩いてた」


 平気なふりをして僕は答える。


「けんかしてたからか」


 父親からは酒の匂いがした。レベルアップした僕には、もうなんとなくこの先どうなるか分かった気がした。


「うん」

「今は何してたんだ」

「DVD見てた。ごめん。もう寝るよ」


 僕はもう耐えきれなかった。


「すぐ逃げようとするなよ。そのDVDずっと見てるな、いい加減にしろよ。前にもそのDVDの話夕飯の時にしたよな。その時にもう下のテレビでそれ見るの俺が嫌なの気が付けよ。なあ!」


 だんだんと声が大きくなり、怖いという気持ちと一緒に気持ちの悪さを感じる。


「本当にごめん」

 鼻がつーんとして、声が震えてしまう。


「なんだよ。お前あいつと喧嘩してるときも、どうせ俺が悪いと思ってるんだろ!」

「そんなことはないよ」

「うそつけよ、お前はそういう目をしてる」


 気が付けば僕は泣いていた。


 もうこれは癖なのかもしれない。勝手に涙が出てきてしまう。

 自分だって泣きたいわけではないけど、言葉が出なくなる代わりに涙が出てくるのだから仕方ない。

 このときに母親がいると、また泣いてるんだという顔をされるのがとてもつらい。

 今は上で寝ているから泣いているところを見られなくて済む。

 きっと別に起きていたとしても、ただ面倒くさそうな顔をしてこっちを見てくるだけだ。


「お前もう寝ろ」

 まるでさっきまで怒っていなかったみたいな落ち着いた話し方で父親は言った。


「はい」


 僕は小さく返事だけすると、自分の部屋へと逃げるように階段を駆け上がった。

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