第2話 いつものとおり
「また明日ねー」
僕はゴミ捨て場のところを左に曲がって、ピンクコースのみんなと別れた。
車が一台しか通れない道を進んで、クリーニング屋を過ぎると、大人のお風呂屋さんがたくさん見えてくる。僕は、たばこを吸っている黒服さんたちにいつも通り変な目で見られながら、冷たくて重い鉄の扉を開ける。
家のカギはいつも玄関扉の上に置いてあって、盗まれたことは一度もないらしい。
玄関から靴を履いたままそっとリビングを覗くと、電気は消えていた。
少し安心した僕は、靴を脱いで台所に行き、冷蔵庫から牛乳を取って、お気に入りのグラスに注いだ。一気飲みした後は、飲んだことが分からないようにグラスを洗ってすぐしまう。
僕は二階の自分の部屋に向かった。
床に置いてある自分の洗濯物を拾って部屋に入る。
今日はパンツだけだった。
友達からするとこの部屋はちょっと広いらしい。この部屋は昔兄が使っていた。そのときはよく部屋に呼ばれて、やりたくないPS2のホラーゲームをやらされて嫌だった思い出がある。
僕のずっと貯めていたお年玉を盗み、プレイ中で、やっと黄色の僧侶が仲間になったばかりのドラクエを売り飛ばした兄は、今どこで何をしているのだろう。
しばらくただベットでごろごろしていると父親が帰ってきた。扉の閉め方、歩いている音で大体分かってしまう。
僕は家に帰ってきていることをなんとなく伝えるため、一階へ降りた。
「帰ってたのか。ごはんどうする?」
「シチューがいい」
同じ間違いをしないようにすぐに答える。
「分かった。できたら呼ぶ」
「分かった」
僕はすぐ自分の部屋に戻った。
くもった大きなガラスの窓を開ける。目の前には一面崩れた屋根のない家がある。僕は、抜けた歯を毎回この捨てられた家に向かって投げた。おかげで順調に歯は生えそろってきている。
空はどんよりしていて雨が降りそうだった。
やることもないのでまたベットに飛び込んだ。
バウムクーヘンのような木目の天井を見ながら、ふと最近は父親に怒られる回数もすっかり減ってきたなと思った。
きっと僕がレベルアップしたからだろう。
一回失敗すれば、次は二度と同じ間違いをしないようにすることができる力を手に入れたのだ。
この力がなんの役に立つか分からないけど、このことだけは友達の誰にも負けない気がした。
雨が降ってきた。屋根にポツンポツンとあたる音が部屋に響く。
冷たい木の床に耳を押し付けても、一階から嫌な音は聞こえてこない。
ただ雨の音しか聞こえない部屋は居心地が良かった。
日は落ちていないけど、電気をつけないと部屋はもうかなり暗かった。でも僕はこの暗いままの部屋で、もう少し目をつぶっていたかった――
「めしー」
僕は父親の声で目が覚めた。
少し寝てしまっていた。
口についたよだれを袖で拭きながら、僕は慌てて階段を駆け下りた。
寝ている間に母親も帰ってきていたようで、三人でご飯を食べる。
小さな音でテレビがついている。
僕と母親はシチューを食べるが、父は焼き魚とみそ汁と白ごはんを食べる。
みそ汁はなめこで僕も食べたかった。
ごはんを食べているときにあまり話はしない。ただ食べるだけ。
父親にうまいかと聞かれたらうまいと言って、何も言われなければ黙ってさっさと食べてごちそうさまと言う。
すぐにご飯を食べ終えたら、ごちそうさまと言って、リビングのテレビを見ているふりをしてしばらく過ごす。
三十分くらい時間を潰して、親二人がご飯を食べ終えたら、皿を洗う。そうすると、二人はすぐにスナックを開ける準備を始める。父親は店に向かい、母親はメイクをする。
このとき僕はとても安心した気持ちになる。
僕は食器を棚にしまうと、母親に「じゃ部屋戻るから」と一応声をかけてから、階段を上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます