お出かけ

「あ、時間だ。陽菜さんの部屋行こ」


 起きて麻雀で時間を潰し約一時間、陽菜との約束の時間がやってきて、春人と優香は一緒に陽菜の部屋へ向かった。


 部屋の鍵は当然開いていなくて、インターホンを鳴らす。


 しばらくなにも起こらなくて、春人はもう一度インターホンを鳴らした。


 するとようやく掠れた声で陽菜が返事し、扉を開ける。


「陽菜さん、おはようございます」


「春人くん、おはよぉ」


 中から現れた陽菜は、乱れた髪、肩がはだけた部屋着などなど、出発の準備がまだできていないように見えた。


 あまりの軽装に、春人は優香が怒ることを危惧した。しかし、春人の想像とは異なって優香はただ陽菜をジト目で見るだけ。


「そろそろ出ますよ、行く準備してください」


「春人くんが着替えさせてよぉ」


 春人はどう反応するべきか戸惑う。そこに大人しくしていた優香が割り込んだ。


「寝ぼけているからってなんでも許されると思ったら大間違いですよ」


 棒立ちの春人をよそに、優香は陽菜を部屋の中に押し込み、部屋の扉を閉める。


 春人は部屋の外に追い出され、二人が出てくるまで待つことを余儀なくされた。




「ごめん春人、遅かったよね」


「いや、別に待ってない。陽菜さんは?」


 陽菜を心配する春人の言葉に、優香は一瞬唇を尖らせるが、すぐにそれを引っ込めて答える。


「すぐ出てくるはず。ほら」


 同時に優香が陽菜の部屋の扉を指さすと、外出用の服に着替えた陽菜が姿を現した。


「春人くん、優香ちゃん、ごめんね、手間かけちゃって」


「僕は気にしてないです。というかなにもしてないので」


「春人がいいならわたしもいいですよ」


 一連の会話で陽菜の罪が赦されると、三人はひとまずマンションのエレベーターに向かった。


 そして話題は今日の遊びのことへと移り変わる。


「なにする? 映画とか?」


「買い物も捨てがたいと思います」


 まさか当日になってもなにをするのか決まっていないとは、どれだけ無計画な集団だろうか。しかし、三人にとってはそれがちょうどよかった。無理に縛るより、自由な方が。


「僕、見たい映画あります」


「どんなの?」


 陽菜が尋ねると、春人はすらすらと説明を始めた。


 いわく、その作品はもともと小説で、それが映画化したものらしい。


「うちにあるから、優香は読んだことあるはず」


 その時点ではいまいちぴんと来ていないようだったので、春人はさらに詳しく説明する。


 内容は、余命わずかな少女に恋をした少年が、少女を喪ったあとの話。少女がいない喪失感を感じながらも、着実に前に進んでいく作品だ。


「あ、読んだことある。めっちゃ泣いた気がする」


「そうだったかも」


 春人は、優香がその小説を読んだ時のことをよく覚えていなかった。


「わたしもその映画見てみたい」


 陽菜が春人の意見に賛成する。続いて優香もそれに同意した。

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