夜更かし

「また僕が勝っちゃったね」


 春人は積極的にゲームをする方ではないが、それでも家にはゲームがある。


 麻雀で勝ち越しすぎてしまったので、次はゲームに移ろうかと提案するが……。


「駄目。わたしが一勝するまでやる。勝ちっぱなしなんて許さないから」


「まあ、優香がそう言うなら」


 さっきまでのテンションとは打って変わって、優香は闘志を燃やしていた。


 静かだった優香はもういない。


「まあほどほどにして早めに寝ようよ」


「明日、休日じゃん」


「なんとなく言いたいことがわかった気がする。仕方ない、僕も付き合おう」


「わざと負けたりしないでね」


「やらないよ、そんなこと」


 かくして春人と優香の本気の戦いが幕を開けた。




 決着は、案外早くついた。


 四人での麻雀と違い、使う牌の枚数からして運に左右されやすいゲーム性になっている。


「よし、満足。そろそろ寝ようか」


「やだ。次はゲームしよう」


「でもそれだと睡眠時間が」


「明日は休日」


 どうやら優香は明日の約束を忘れているみたいだった。


「優香、明日陽菜さんと三人で遊びに行くんでしょ。十時から」


「あ」


 優香がこういう約束を忘れるとは珍しい。


「さすがにそろそろ寝よう?」


「……そうだね」


 優香は納得したらしかった。春人と優香のやり取りの様子が、まるで親子みたいだ。


「で、一緒に寝るんだっけ」


「うん」


 彼女は顔を明るくしてうなずく。


「ちょっと狭くない?」


「そのくらいがちょうどいい」


 優香の感覚は春人にはよくわからなかった。


 しかし、優香がいいならいいやと春人は納得して、部屋の電気を消し、先に布団に入る。


「優香も、寝るなら入ってきなよ」


「……」


 優香は無言で掛け布団をめくって布団に入り、春人に優しく抱き着く。


 実のところ、優香は一人で寝るのが寂しく、しかも春人と一緒に寝たかったので、これはちょうどいい機会だった。


「僕は、本当に知らないからね」


「言ってるじゃん、春人ならいいの」


 口ではそう言っても、一緒に横になって抱き着いた春人は優香の想像より大きく、少し怖かった。


「それに、春人はわたしの同意なく手を出すような人じゃないって信じてるから」


「……まあ、そうなんだけど。僕以外に同じようなことしたら安全は保障されないと思う」


「春人以外にこんなことしないし」


 本気で優香を心配していた春人だったが、予想外の返しに天を仰ぐ。


 優香は、春人が想像している以上に春人のことを特別視していた。


 優香にただの幼馴染だと思われていると春人は予想しているが、実際は春人は――


「あれ、春人寝ちゃった」


 優香はちょっとだけ強く春人に抱き着く。


「好きだよ、春人」

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