夜ご飯

「じゃあ、僕たちはそろそろ帰ります」


「うん、そうだね。また明日にでも」


「また明日、陽菜さん」


 春人と優香が陽菜の家を去る。


 部屋の外に出ると、空はすっかり暗くなっていて、もう夜だということを感じさせる。


 春人が優香を引き連れて家の鍵を開けると、明かりはついておらず、春人は溜息を吐いた。


「ただいま」


「お邪魔します」


 家の中に誰がいるというわけでもないのに、「ただいま」を言う。


 優香もそれに続いて挨拶をするが、当然返答はない。


「僕はご飯作っとくから部屋で待ってて」


「わたしも手伝う」


「そっか、じゃあ一緒に作ろ」


 優香は荷物だけ置いてキッチンへ移動する。


「優香、なに食べたい?」


「わたしはなんでもいいよ。強いて言うなら、春人のオムライス久しぶりに食べたい」


 春人はそう言われて、懐かしく思う。


 二人がまだ小学生だったころ、親がいないときは春人がよく優香にオムライスを作っていた。


 優香はその味が記憶に深く刻み込まれていた。


「じゃあ、優香は野菜切っといて。僕は鶏を切る」


「わかった」


 二人は黙々と料理を進める。沈黙も、さして苦ではなかった。


 材料を切り終わると、どちらが言い始めるでもなく米を炒め始める。


 いろいろ突っ込んでチキンライス完成。


 そして卵を広げて焼きチキンライスを乗っけて優しく卵で包む。


「春人、やっぱり包むの上手い」


「さすがに慣れてるから」


 その調子で二人分を用意し、適当に盛り付けてケチャップをぶっかけてオムライス完成。


「春人、結構適当に作ってるんだね」


「さすがに慣れてるから」


 春人がオムライス二つを、優香がお茶とコップ二つをそれぞれお盆に乗せて運ぶ。


 優香は春人の家を大体把握しているので、難なくコップとお茶を用意する。


 部屋の机にそれを並べて、二人は向かい合って座る。


「ちょっと寂しいね」


「そうかも。部屋が静かだからかな」


「昔はリビングでテレビつけてたっけ」


「そうだったな」


 暖色の明かりが余計静けさを引き立てる。


「あとで、それ読んでいい?」


「うん」


 優香が春人の棚を指さして、小説を借りる予約をする。


「でもそれ前も読んでなかったっけ」


「前気に入ったから、二週目」


「そっか」


 優香は春人の部屋にある小説をすべて読み終わっているし、春人は優香の家にある漫画をすべて読み終わっている。


 二人はあまり会話はせずにオムライスを食べ続ける。


 時折優香が美味しいと伝え、春人が感謝する。


「ごちそうさま」


「ごちそうさま」


 二人それぞれほぼ同じタイミングで食べ終わる。


「なにする?」


「確か春人、麻雀持ってたよね」


「うん、持ってる」


「それにしよ」


 優香の言葉を受けて、春人は引き出しを開ける。

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