喧嘩

「陽菜さん、協力してくれるのはありがたいんですけど、どういうつもりなんですか?」


 陽菜は焦る。


「ばれてる?」


「春人のこと、好きなんですよね。バレバレです」


「さすが優香ちゃん。前々から思ってたけど、優香ちゃん賢いよね」


「話を逸らさないでください。どうして陽菜さんも春人のこと好きなのにわたしに協力するんですか?」


 その理由が行きつくところは、人生における陽菜の行動原理。すなわち、陽菜の生き様。


 陽菜は、優香にそれを伝えるべきか逡巡する。


「優香ちゃんになら、話せる」


 そういう結論に行き着く。


 優香は陽菜の話を遮ることはせず、陽菜の話に耳を傾けた。


「わたしは身体以外の魅力がないの」


 言いながら俯き、大きな胸を見下ろす。


「だから、春人くんに選ばれるべきなのはわたしじゃなくて優香ちゃん」


 言い終わった後、陽菜は付け加えるように自嘲して笑う。


 優香はずかずかと陽菜に歩み寄る。


「さすが陽菜さん。前々から思ってましたけど、陽菜さんって馬鹿ですよね?」


 優香が両手で陽菜の頬を挟み込む。


 陽菜は頬を押しつぶされながら、驚きで目を見開く。


「誰が自分に自信のない人を好きになるんですか。もう少しくらいは自信を持ってくださいよ馬鹿」


「馬鹿って……」


 優香が手を放すと、陽菜は不服げに呟く。


「実際には馬鹿じゃないんですか?」


「いや、まあわたしは馬鹿なのかもしれないけど……」


「はい馬鹿なところ出ました。陽菜さんは別に馬鹿じゃないのでもっと自信持ってください」


「そのひっかけ方する!?」


 陽菜は、優香が想像より鬼畜だということを知った。また一つ賢くなった。


「冗談ですよ。わたしが言いたいのは、陽菜さんは自分が思っているより魅力的だってことです」


「優香ちゃん……」


 優香が真剣な目で陽菜を見つめる。


 陽菜は、笑顔で涙を流す。


「これ以降はもう手加減しませんよ。春人は渡しません」


 優香が告げるのを聞いて、陽菜は涙を拭く。


「受けて立つよ、優香ちゃん」

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