お姉さんの説教

「春人くんはねえ、消極的すぎるみたい」


「消極的ってわけじゃなくて、ただ受動的なだけなんですけど」


「でも思い当たる節はあるみたいだね」


 確かに春人は積極的に優香を遊びに誘ったりはしなかった。


「それが優香にとっては嫌だったってことですか?」


「そういうこと」


 じゃあどうしようか、と考えるがこういう事態は初めてで、対処法がすぐには思い付かない。


 ただ、積極的な姿を見せれば優香が機嫌を治してくれそうだということはわかった。


「じゃあ、今度遊びにでも誘ってみればいいんですかね」


「たぶんそれでいいと思う。駄目だったらまたわたしに相談して」


「ありがとうございます、陽菜さん」


 陽菜は春人の感謝を聞いてから、自分で言ったことに頭を抱える。


 いくら優香と春人の仲を取り持ちたいとはいえ、陽菜にできることは少ない。また相談されたら困る。




「優香、いつ空いてる?」


 学校へ向かう途中。春人の方から会話を切り出すのは久しぶりなので、少し緊張しながら切り出す。


「わたし? 今週なら土日両方空いてるけど」


 幸い今週の土日は春人も空いていて、一緒に遊びに行くにはいいチャンスだ。


 さらに、春人は今日に向けて、今週末に上映している映画を把握していた。


「じゃあ、映画見に行かない? たぶん優香も気に入りそうなやつ、やってるんだけど」


「!」


 優香の顔には、春人から見ても明らかな喜びが浮かぶ。


「春人の方から遊びに誘うなんて、珍しいね」


「僕の方から手を伸ばさないと、優香を失ってしまうかもしれないと思った」


「嬉しいよ、春人」


 優香が微笑む。


 その微笑みに、春人の緊張が解かされる。


「実はわたし、春人が消極的すぎて陽菜さんに相談してたんだよね」


「あれ、優香は陽菜さんのことが苦手だと思ってたんだけど」


「普段は春人が取られそうだから避けてるだけだよ」


 優香は心の中で、春人に嫌われてるかもと思ったら誰でもいいから頼りたくなったんだよ、と一人呟く。


「取られる? どういう意味?」


「なんでもない。ちょっとした言葉の綾だよ」


 優香がぼかすと、春人もそれ以上の深追いはしない。


「春人と映画見に行くって考えたら、今週も頑張れるかも」


「土日はまだちょっと遠いけど」


「もう楽しみなの」


 優香がいつも通り――いや、いつもより春人へ好意を向けているのを感じて、春人は安堵した。

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