なにを考えてるんですか?

「陽菜さんは、一体なにを考えてるんですか?」


 優香が、捉えようによっては悪口ともとれる発言をして、春人は慌てて宥める。


「ちょっと優香、失礼だよ」


「いや、春人くん、優香ちゃんの言ってることは正しいよ」


 優香を止めようとした春人を陽菜が止め、春人はどういう意味かわからないまま陽菜と優香の会話が続くのを待った。


「わたし、なに考えてるかわからないってたまに言われるんだよね。なにが知りたいの?」


 陽菜はあくまで優しく、優香に知りたいことを尋ねる。


 優香は、ここまで包容力のある陽菜に対して敵意をぶつけていることが後ろめたく、俯いた。


「どういう考えでわたしたちを家に入れてるのか、とか」


「憧れ、かな」


 優香の問いに、陽菜は即座に答える。


「優香ちゃんとか春人くん、わたしから見たらすごく眩しい。そんな二人の近くにいることで、二人の気分を味わってる」


 わかるようなわからないような返答に優香は頭を悩ませる。その様子に気を遣ったのか、陽菜はさらに続ける。


「わたしも、まだ青春の気分に浸ってたいんだよ。もう成人して大学も卒業して、社会に出る年齢になったのに」


 自虐を込めて陽菜は笑って目を伏せる。


「なにも悪くないじゃないですか」


 自虐した陽菜に、春人が割り込む。


「自分の好きなようにすればいいと思います。僕だって、自分の希望を押し通すつもりです」


「春人くんの希望って?」


「優香と一緒にいることです」


 それを聞いて、優香は「えっ」と目を丸くし、陽菜も面食らったような表情になり、春人の表情を窺う。


 春人は、真剣な表情をしていた。


 春人の覚悟を見た陽菜は今度は優香の表情を窺うと、彼女はこらえきれないかのようににやけている。


「僕は、優香と一緒にいられれば、それ以上は望みません。でも、優香と引き離されるのは耐えられないから、優香と離れてしまう道だけは選びたくない」


 春人が真剣な顔で言い切ると、優香が春人にとびかかって抱き着く。


「春人」


 優香が名前を呼ぶと、春人は笑顔になる。


「ありがと」


 優香が感謝を告げると、春人はただ頷く。


 二人の様子を傍から見る陽菜は、二人の甘い空気感に心臓を揺らし、締め付けられるような痛みを感じる。


 これは、青春の最中にいる二人に嫉妬しているのか、それとも――


 陽菜自身もわからず、戸惑う。


「わたしも、二人が一緒にいられるようできるだけ手伝いたい」


 胸の痛みとは別に、二人に一緒にいてほしいという願いもある。


 陽菜は、二人に協力を申し出た。


 微力かもしれないけど、少しでも力になりたい。

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