僕は、優香さえいれば
「春人、今日も学校が終わったら陽菜さんの部屋に寄るの?」
「僕は、その予定。陽菜さんは他の大人とちょっと違う気がして、居心地がいい」
陽菜はまだ青春の延長線上に位置していて、春人にとってはそれが心地良いらしかった。
それを春人が陽菜に話すと、優香は少し不服げな顔をした。
「わたしは?」
「優香は、陽菜さんとはまた種類が違うけど、安心する」
優香は問い詰めたが、春人が理想の回答をして納得し、落ちつく。
優香が不服だったのは、春人が陽菜ばかりを評価していたことだったが、春人が優香も正当に評価したので、優香は納得した。
「じゃあ、一緒に陽菜さんの家に行って、二人で春人を安心させてあげる」
「ありがとう、優香」
「それで、春人はどうして大人を嫌ってるの?」
優香が尋ねる。
春人はこれまでも、何度か大人を嫌うような発言をしていた。
「大人たちは、僕らに未来を求める。将来なにになりたいのかとか、今なにをするべきなのかとか。そんなのまだ曖昧で、僕はただ――」
「ただ、なに?」
春人が続く言葉を優香に話すことは出来なかった。
ただ、優香がいればいいから。まだ春人はそれを本人に伝えることが出来るほど大人ではなかった。
「なんでもない。今でも幸せってだけ」
優香がいて、春人になにか言うわけではない陽菜がいて、曖昧に日々を楽しむ、青春の微睡みみたいな空気感が、どうしようもなく愛おしい。
「幸せ」という一言に春人が込めた意味を、優香は余すことなく受け取る。そして、その先の、いつかぬるま湯から出なければならない不安まで読み取る。
優香は、春人を後ろから抱きしめる。
春人は自分を包む優香の温かさと、背中を圧迫する柔らかさに安心させられる。
「でも、待って。ここ学校だから、帰ってからにしよう。僕の気持ちまで読んでくれるのは嬉しいんだけど」
「駄目。春人、今がきつそうだから、今じゃないと」
「ありがとう」
巨乳で美少女の優香が春人を抱きしめているという光景は、春人の言っている通り人の目を惹きつける。だから春人は一度注意したが、優香は辞めなかった。
春人は人に注目されて少し居心地の悪い気分にはなったが、特別に嫌だというわけでもなく、それよりも優香に抱きしめられている安堵の方が強く、春人は一度注意した以降はなにも言わなかった。
「春人、辛いことがあったらわたしに言うんだよ」
「わかった。今は、大丈夫だ」
「そっか」
優香は春人を抱きしめながら優しく笑った。
春人は、優香さえいれば、と思い直した。
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