猶予期間

 優香と春人を見送り、ゴミ出しを終えて自らの部屋に帰った陽菜は、二人のことを考える。


「優香ちゃん、怒ってたかな……」


 陽菜は、優香が春人に好意を抱いてることに感づいていた。そして、春人がその感情に気づいていないこともわかっていた。


 だからこそ、陽菜の服装に優香が怒りを露わにする理由もわかる。


(でも、わたしにはこれしかない)


 陽菜が他人に好かれるためには、自分の身体を武器にするしかない。陽菜は、そう思い込んでいる。


(わたしには魅力は全然ないけど、この豊かに育った身体だけは優香ちゃんにも負けてないから)


 陽菜は心の中で考えながら、自分の胸を持ち上げる。何キロにも及ぶ重量が、手を圧迫した。


 実のところ、優香も同じくらい大きく重い胸を持っているのだが、優香とは違い陽菜は胸の大きさを春人に積極的にアピールしているので、春人の中では陽菜の方がエロいということになっている。


 春人も、優香でさえも、陽菜の魅力はその豊満な身体だけではないということを知っていたが、陽菜はそうは思わなかったらしい。


(卑怯かもしれないけど、わたしはこのえちえちなおっぱいで勝負するから)


「そろそろバイトの時間かあ」


 陽菜の職業はフリーターで、深夜も含めて月におよそ三十時間働いている。


 そのため、週五日働く場合、一日六時間働く必要がある。


 陽菜の場合は、大学を卒業して今の家に引っ越してからは朝の八時過ぎに春人と優香を見送り、九時から十五時までバイトをしている。


 十五時過ぎに家に帰ってきてからは、春人や優香を家に入れながら自分のやりたいことを探すという日々だ。


(明確に目標とかがあるわけでもないのに、いつまでもフリーターをしているなんて)


 という罪悪感もあるが、それでもやりたい仕事は見つからず、就職する踏ん切りもつかないのが陽菜の現状。


 だからだろうか、自分の部屋を春人と優香に貸すことで青春の延長戦みたいな気分に浸るのは。


(はあ、一人だとどうしても暗くなっちゃうな……)


 陽菜は考えながらも一時間弱で出かける用意を済ませる。


 バイト先では陽菜は避けられがちなので、職場に行くのですら少し憂鬱だ。


「ま、就職するよりは今の方が楽なんだろうけど」


 陽菜はそれだけ呟き、嫌々ながらも家を出た。

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