女子トイレというのは戦場である。

 休憩時間になると、わたしと彼女はトイレに向かうことにした。


 彼女はドスドスと年相応な歩き方でわたしの前を歩く。ずっと椅子に座っていたせいで、下着に沿ってシワになった暴力的なまでに丈の短いスカートを見ていると、彼女のコケティッシュさに苦笑してしまいそうになる。


「で、先生はどういうつもりなんですか?」

「あら、いきなりなのね」


 トイレに入ると、彼女はポーチを手にして洗面台の鏡越しに問うた。わたしに直接対峙するまでの胆力はないらしい。わたしは彼女に好感を持てるようにはなっているが、邪魔をされるのはなんとかしたいので、考える。


「あなた、彼の何なのかしら?」

「何って?」

「単なるクラスメイト、それとも友達、あるいは――恋人なのかしら?」


 恋愛に免疫のないのは見ればわかる。事実、彼女は恋人という単語だけで動揺している。


「べ、別に、先生には関係ないじゃないですか」

「ふふ、そうかしら」


 わたしは出来るだけ慎重に、脅していく。


「わたしは一応ここの講師なので、生徒同士の恋愛は困るわ。学校に連絡とかしたくないし」

「えっ」

「夏休みとはいえ、そんな短いスカートを履いて男女二人でいること、学校に知られたくはないでしょう?」

「学校は関係ないじゃない」

「貴女がなくても、大人はそうはいかないのよ」


 わたしは彼女に近寄り、耳元でささやく。


「彼が好きなの?」

「好きとか――」

「わたしは、好きなのよ」


 驚き戸惑う彼女に、わたしは彼の映った待ち受け画面を見せて、本性の一端を晒す。


「黙っていてくれると嬉しいんだけど、どう?」


 彼女は固まってしまう。


「この土曜日の時間だけ、わたしに彼を頂戴。他の日は貴女の好きにすればいいわ。応援だってアドバイスだってなんでもしてあげる。その似合わない香水ではなく、彼が喜びそうな香水だって用意してあげるから、貴女は貴女で彼を好きになればいい。だけど、この時間だけは、わたしにくれないかしら?」


 彼女に理性を与えてはいけない。わたしは畳みかけるように、誘惑という名の脅しをかけ続けていくのであった。

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