約束通り、彼女は来なくなった。

 そのかわり、彼女とは連絡先を交換して、定時帰りする平日の水曜にわたしの部屋で会うことにした。彼と恋人になるアドバイスや相談に乗ることにしたのだ。もちろん、彼女に彼を渡すつもりはない。できるなら、彼を先に自分の部屋に招いて閉じ込めたいくらいなのだが、まだその段階ではない。まずは彼女を味方にしながら、講座で彼を落としていくことにしたのだ。


 三回目の講座には彼だけがやってきた。「彼女はついていけなくて、辞めました」と申し訳なさそうな顔をして代弁する彼。今日もヨレたTシャツに制服用の白ソックスという、緊張感の欠片もない恰好でパソコンの前に座っている。わたしは彼女のことには触れずに、彼の手の方に触れる。


「ほら、この部品を使わないと、プログラムはループをできないわ」


 わたしは彼の背に胸をつけて、液晶モニターを指さす。彼がビクッとするのがわかった。これでいい。ようやく彼との時間を取り戻した気がして、ほっとする。


 彼はなんとか完成させようと、マウスを忙しく動かす。わたしはその動きを見つめながら、彼の腰に手を忍ばせる。嫌がるだろうと思ったけれど、すんなりと受け入れるどころか、本当に僅かにだが、わたしの方に身体を傾けるではないか。


「ここ、よくわからない?」

「はい。ちょっとわかりません」


 わたしが身体をひねると、彼の頬がわたしの胸にギリギリあたらないところまでやってくる。

 わたしは賭けに出ることにした。


「もうちょっと詳しく教えてあげたいから、良かったら明日にでも、先生の家に来ない?」


 彼は驚きながらも、頷いたのだった。

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