初日の講座は無事終了した。

 彼は課題を無事クリアすることができたので、誰のためのご褒美かはともかく、彼の頭を撫でてほめようとしたが、彼は断ってきた。このくらいの男の子は、子ども扱いされるのを嫌うようで、どうやらアクションを間違えてしまったようだ。


 わたしは無様な咳払いをしてから、「よくできました」と言って握手を求めた。ここまできて彼と触れ合えないのは悲惨である。彼は戸惑うも、これを大人のコミュニケーション手段と認識してくれたようで、あの柔らかい手を差し伸べてくれる。わたしは食い気味に彼の手を両手で包み込むと、「また来てね」と、出来るかぎりのお姉さんスマイルをしながら別れを惜しんだ。


 家に帰ると、そのままベッドに突撃してから身を悶える。こんなにスムーズに彼と触れ合えたことへの達成感は、ソフトをマスターアップした時以上のものがあった。ここ数日、彼のことで頭が一杯で注意力が散漫になり、上司に注意をされてストレスになっていたが、そんなものは最初からなかったかのように、すっ飛んでいってしまった。


 自分の手を見てニヤける。アイドル好きの友人が、お目当てのアイドルと握手して「一生手を洗わない!」と叫んでいた気持ちがようやくわかった。彼もわたしの手の感触を思い出して、そう考えてくれるだろうか。いや、まだ初日だ。先走りすぎるにも程がある。わたしは言葉でのコミュニケーションをすっ飛ばして、はしたない雌猫のように、身体を彼にすりつけていたのである。気持ち悪がられても仕方がないレベルだ。


 そうは思いながらも、自重するための良心はピクリとも動かなかった。次回の講座を想像して、気持ちは更に高まるばかりだ。

 いったい、彼という青い果実は、わたしをどこまで大胆にさせていくのだろうか。

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