どうすれば彼を手に入れられるか考える。

 一回り年齢の離れた彼に近づくのは至難の業だ。下手をすれば通報されてしまうだろう。わたしは化粧台の前で、ハイリスクな恋をしてしまった自分を眺める。特に美人でも可愛いわけでもないが、不快な容姿ではないはずだ。これまで、それなりに男から声をかけられて、何人かの彼氏もいた。「何かの」お姉さんとして、彼に近づく方法さえあれば、わたしの想いは成就できるはずだ。


 社会人生活ですり減らされてしまった精神に、再び青白い炎が灯っているのが自分でもわかる。こんなに誰かを好きになったのは初めてではないだろうか。嫌いではない上司に不倫を誘われたとき以上の不気味な興奮を覚えている。


 衣替した夏服ではまだ肌寒い六月の半ば。わたしはベランダから朝の彼を見下ろす。友人たちとの談笑がこの三階まで聞こえてくる。どうでもいいことに笑う彼の無邪気さを取って食べたくなる。彼の顔は見えず、頭のつむじがわずかに揺れながら、わたしの視線から去ろうとしている。今日も元気そうでなによりだ。


 わたしは部屋に入り、スマホを待ち受け画面を見て微笑む。便利な世の中だ。彼のクラスの友人が撮った写真が学級サイトに載せられていたのだ。わたしは彼に軽くキスをしてから、仕事に行く支度を始めることにした。

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