デバッグできない恋

犀川 よう

わたしはこの少年を欲しいと思った。

 ひどく蒸した五月の末。自宅のマンション前の通学路で詰襟のまだ少年といってもいい彼を見つけて胸が痛んだとき、わたしは心の中にあるモヤモヤとしたものの正体を知った。まさかの恋である。それも、彼とは一回り近く離れた二十四歳でやってきた、狂暴で悪辣なやつだ。


 ゴミを捨てるだけの恰好で降りてきたことを後悔しながら、姿を彼に見られぬよう、マンションの玄関の奥から彼を見る。まだ数回しか見ていないのに、どうしようもなく心臓が暴れる。学生らしい清潔な黒髪。栄養が満遍なく行き届いていない成長期ならではの青白い肌。手入れとは無縁の眉。あどけない目。この先の成長を見越したダボダボな制服。彼のどこに視線を移しても、わたしの黒い欲求は刺激され、胸の中とお腹の下あたりがムズムズとする。


 わたしはマスクで曇る眼鏡を呪いながら、靄の向こういる彼が通りすぎるまで見送ると、彼の背中にささやかな想いをつぶやく。


 どうか、よい一日を、と。

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